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魔法少女リリカルなのはStrikers 高町なのは フェイト・T・ハラオウン 八神はやて SP:127 能力 コマンド 消費 SP:124 能力 コマンド 消費 SP:128 能力 コマンド 消費 性格:普通 格闘140 集中 15 性格:冷静 格闘152 直感 20 性格:普通 格闘137 集中 10 射撃153 直感 20 射撃146 迅速 20 射撃152 分析 20 防御110 狙撃 15 防御 99 集中 15 防御 98 直感 20 成長:普通型B+ 技量181 てかげん 1 成長:普通型B 技量181 突撃 30 成長:普通型B 技量181 直撃 30 回避174 魂 50 回避179 魂 50 回避172 友情 35 命中178 愛 65 命中175 絆 55 命中181 期待 60 スバル・ナカジマ ティアナ・ランスター SP:126 能力 コマンド 消費 SP:119 能力 コマンド 消費 性格:強気 格闘151 加速 15 性格:普通 格闘139 必中 20 射撃138 集中 15 射撃151 努力 15 防御104 不屈 10 防御 97 狙撃 15 成長:晩年型A+ 技量173 闘志 30 成長:晩年型A+ 技量175 集中 15 回避172 気迫 50 回避170 熱血 35 命中173 魂 55 命中177 かく乱 55 エリオ・モンディアル キャロ・ル・ルシエ SP:121 能力 コマンド 消費 SP:127 能力 コマンド 消費 性格:普通 格闘146 集中 15 性格:普通 格闘129 分析 20 射撃136 必中 25 射撃145 応援 35 防御103 気合 30 防御101 信頼 20 成長:晩年型S 技量167 突撃 30 成長:晩年型A+ 技量165 直感 20 回避171 不屈 15 回避166 直撃 35 命中171 勇気 60 命中173 覚醒 70 隊長たち3名は、能力的にはガンダム系のエースパイロットに似た設定にしている。 フォワード4名は才能あふれる新人として、全員大器晩成型の成長タイプにした。。 なのはに関しては、フォワード人の教官としての立場や模擬戦から、てかげんを導入。 愛を習得させるか不屈を習得させるかで迷ったが、彼女の本来の優しさを表すために愛で決定した。 防御系魔法と、元々の素質から防御値は高くした。 射撃値の大きさや命中値、コマンド等から、高機動・射撃戦主体のキラと似たスタンスになっている。 (没となったコマンド 不屈・激励・直撃) フェイトは格闘戦メイン、ライオットザンバー等の武器から突撃を採用。 なのはよりも高機動な為、迅速を所持している。 遠距離戦もこなす為、なのはに比べて全体的なバランスは良い。 最後のコマンドの絆は、無印からの引用。 愛はなのはに譲った。 (没となったコマンド 気合・愛・友情) はやての能力値は広域魔法による殲滅戦をモチーフにしている。 格闘値については、本人が接近戦を捨てているため極力低くした。 SSランク魔導師だが、なのは達に比べて実戦経験がそこまで多くないので、技量値は同じになった。 Asの頃の設定を残し、絆を取るか友情を取るかでフェイトと比べたが、現在はこれで安定した。 彼女の家庭的な優しさから、こちらの方がしっくりくるかもしれない。 (没になったコマンド 絆・覚醒) スバルは、戦闘機人としての能力は反映されていないが、格闘主体としての能力を色濃く設定した。 射撃値は、ディバインバスターがあるが遠距離砲撃とは言い難いので、低く設定した。 ウイングロードがあるので加速を設定。他のキャラにも使えるので、追風でもいいかもしれない。 戦闘機人としての〔覚醒〕は、気迫と闘志に代わりオミットされた。 (没になったコマンド ド根性・気合・突撃・覚醒) ティアナは、本人が認めている努力を軸として設定している。これは彼女という存在の最低条件でもある。 凡人と言っているがそんなことは無い。 最初のコマンドを、集中か必中かで迷ったが、二丁の銃を扱いこなす素質から必中になった。 幻術使いでもあるので、かく乱を設定した。 (没になったコマンド 根性・ひらめき・信頼・直撃・突撃・) エリオは唯一の少年キャラであり、ガリューに恐れず立ち向かったキャラの為、必然的に勇気を覚える。 子供の為、一般的なキャラよりもコマンドの消費は多い。 瞬発力は高いため、フォワードで2番目に高い。 技量値は10歳の子供にしては高く設定した。 (没になったコマンド エリオは迷わず確定した。) キャロはサポートが主なので、他の3人に比べて能力は低い。 サポート関連として応援を所持している。 召還魔導師として、覚醒を設定した。 感応は、今作に登場しないリインフォースが担当するので設定しなかった。 (没になったコマンド 幸運・感応・集中)
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此処はホテル・アグスタから少し離れた森の中、其処で一人の不死者が消滅した。 名はカシェル、かつて管理局陸士部隊に所属していた局員でありスバルとティアナの同期でもある。 その同期を討ったのはヴィータ、スバル達が所属しているスターズ部隊の副隊長である。 今現場は静まり返っていた、カシェルは討つ事でしか助ける方法が無かった。 しかし…だからといって許される事では無い、スバルはきっと自分に対し憎しみに満ちた瞳で睨んでいるだろう… ヴィータはそう思いつつもスバルの身を案じ様子を伺おうとスバルに目を向けた。 …スバルは一点を見据え茫然自失と化していた、そんなスバルに対し肩に優しく手を当てているティアナの姿もあった。 二人の様子を見たヴィータは目をそらすとグラーフアイゼンを堅く握りしめ苦い顔を醸し出す、すると其処にザフィーラが姿を現した。 ザフィーラは先程までエリオ達の護衛を行っていた。 すると其処にエリオ達のもとへ向かっていたシャマルが現れ、シャマルは早速二人の治療を開始、 それを見届けたザフィーラはこの場をシャマルに任せ、自分はヴィータとともにレザードのもとへ向かおうと此処へ来たと話す。 その話を聞いたヴィータは一つ頷くと、ティアナにスバルの事を任せ二人はアグスタへと向かったのであった。 リリカルプロファイル 第十六話 狂騒劇 此処はホテル・アグスタの上空、レザードのモニターには各隊員達がレザードのもとへ向かっている姿が映し出されていた。 「やはり…あの程度の不死者では足止めにはならないか……」 予め予測は出来ていた、元々あの不死者は足止めに使うのには力不足である、むしろ不死者の“存在”こそが足止めに重要であった。 だが…まさかあの様な“演出”が生まれるとは…レザードは眼鏡に手を当て笑みを浮かべていると、左前方からシグナムが姿を現した。 次に右前方からヴィータが、そして後方からいつの間にか回り込んでいたザフィーラが地上から浮かび上がるように現れ、 少し間を置いて、なのはとフェイトが前方正面より姿を現した。 なのはは依然として俯いたままで、その光景を見たレザードは眼鏡に手を当て笑みを浮かべるとモニターを閉じ話し始めた。 「フフッ…どうでしたか?私の考えた“劇”は……」 「“劇”ですって!?」 フェイトの言葉にレザードは「えぇ」と一言口にし頷くと“劇”の説明を始める。 本来であればもっと強力な不死者による足止めを行うことが出来たのだが、それでは面白く無いと考えた。 其処でレザードは最近造った不死者の中に管理局員を材料にした不死者がいた事を思い出し、それを使った足止めを考案したと語る。 何故彼等を起用したかと言うと、一度不死者化した人間は二度と戻ることは出来ない、そして救う為にはその者を消滅させなければならない。 それはつまり不死者化した管理局員を、同じ管理局員の手によって殺す事を指し示す。 そうなればその時に醸し出されるであろう悲痛な表情も見られる為、彼等を起用し足止めを“劇”と称したと語った。 「結末は知っての通り……とても素晴らしい“劇”となったでしょう?」 そう言うと眼鏡に手を当て笑みを浮かべるレザード、その言葉にフェイトは一歩前に出ようとするが、なのはに肩を掴まれ止められる。 するとなのはは今まで俯いていた顔を上げると、その瞳には悲しみの色が滲んでいた。 そして今まで沈黙を守っていたなのはの口が開き、静かに囁くようにレザードに問いかけた。 「アナタは……」 「ん?」 「アナタはこんな“劇”を私達に見せる為に、彼らにあんな惨い事をしたの?」 「そうだ」 「私達の悲痛な表情が見れる…それだけの為に何人もの一般人や管理局員を犠牲にしたというの?」 「その通りだ」 「くっ!アナタって人は!!」 なのはの問いかけに笑みを浮かべ即答するレザード、その態度にフェイトが一言悪態をつく。 フェイトは産まれが“特殊”な為、人一倍命に対し強い想いを持っている。 それ故に命を冒涜するレザードの言動や行動に対し怒り心頭の想いであった。 だがレザードはフェイトの悪態をさらりと受け流すと更に話を続ける。 「もっとも…今回の“劇”は演者の“アドリブ”があってこその完成度とも言えますがね……」 その言葉に周りが疑問を感じていると、レザードは話の説明を始める。 本来の“劇”の内容とは不死者化した“ただ”の管理局員と六課の対決であったのだが、 材料にした管理局員の中に六課と関わりがある人物が存在していたというのは、レザードにとっても予想外の出来事であったと。 つまり今回の“劇”はレザードが考えたシナリオとは異なる内容、つまりは“アドリブ”が含まれていたと語る。 「まぁ、良い“劇”というのは“アドリブ”が栄えてこそ…とも言えますがね」 そう言うと高笑いを上げるレザード、するとなのはは目を瞑り大きく息を吐く。 そして目を開くと、そこにはいつも笑顔が絶えないなのはの顔からは想像も出来ない、怒りの表情を現していた。 そしてその瞳には静かに…だが激しい怒りを宿しレザードを睨みつけこう告げた。 「レザード・ヴァレス…アナタを逮捕します!!」 その言葉とともになのははデバイスをレザードに向け構えると、次々と構えるメンバー達。 するとレザードの腰につけたナイフが輝き出し魔導書へと変化すると左手に収まる。 そして辺りを見渡すと、こう述べた。 「やはりこうなりましたか…まぁ予測していた事ですし、第一幕を開始しましょう……」 そう言って眼鏡に手を当て対峙するレザード、その中まず最初に動いたのはシグナム。 シグナムは一気に間合いを詰めるとカートリッジを一つ消費し紫電一閃を放つが、 右手に五亡星を中心とした円陣で構成されたシールド型ガードレインフォースを展開され一撃を防がれる。 「どうしました?まさかこの程度ではないでしょう」 「なにを!!」 レザードに挑発され更に力を込めるも、一向に砕ける様子のないシールド、むしろシールドを介してレザードは魔力による衝撃波を撃ち出すとシグナムは吹き飛ばされた。 そしてレザードはシールドを解除するとクールダンセルを唱え、レザードの前には精霊を模した氷の人形が現れる。 氷の人形の手には氷の刃が握られておりシグナムに切りかかるが、 未だ刀身が燃え続けているレヴァンティンによって切り払われた。 一方レザードの後方ではフェイトが見上げる形で位置に付くとハーケンセイバーを撃ち出す。 ハーケンセイバーは弧を描きながら標的であるレザードに向かっていった。 だがレザードはリフレクトソーサリーを展開させ、ハーケンセイバーをフェイトに向け跳ね返した。 「そんなっ!何故!」 「甘いですね、私が使えないとでも?」 そう言って目だけを向け見下ろす形で応えるレザード、その表情に苛つくもフェイトは跳ね返されたハーケンセイバーを迎撃した。 その間にレザードの頭上で待機していたヴィータがラテーケンハンマーの推進力を利用した振り下ろしが襲いかかる、だがそれすらもシールドで防がれてしまった。 「野郎!砕けやがれ!!」 「その割には一歩も動いていませんね」 レザードはヴィータを挑発するとヴィータは歯を噛み絞めカートリッジを消費する。 それを見たレザードは足元に五亡星を描くとその場から消え去る。 場にはヴィータの一撃が虚しく空を切る音が響いた。 「転送魔法だと!?野郎!何処に!!」 「……っ!ヴィータ!上だ!!」 シグナムの呼びかけにヴィータは上を見上げるとレザードが右手をかざしている姿があった。 レザードはファイアランスを唱えると二つの炎がヴィータに向かって襲いかかる。 だが、ヴィータの前にザフィーラが立ちふさがると障壁を展開させ、ファイアランスを弾いた。 「ほう……ならばこれはどうでしょう?イグニートジャベリン」 そう唱えるとレザードの周りに光の槍が五つ姿を現れ、一本ずつ撃ち出した。 まずは一本目、イグニートジャベリンは容易くザフィーラの障壁に突き刺さると亀裂が生じた。 続いて二本目、これも同様に突き刺さり亀裂が生じると先程の亀裂と繋がり障壁全体的に走る。 このままではマズいとザフィーラが考えていると、なのはから念話が届きヴィータと目を合わせ頷く。 そして三本目を撃ち出すとザフィーラの障壁を容易く打ち砕いた。 だが障壁が砕けた瞬間、ヴィータとザフィーラは左右に展開し中央からなのはのディバインバスターがレザードに向かって延びていった。 レザードは残りのイグニートジャベリンを撃ち出すがディバインバスターの勢いにより弾かれてしまう。 すると今度はシールドを展開させ、ディバインバスターを受け止めたのであった。 「なのはのディバインバスターを受け止めやがった!?」 「やるな…あの男」 ヴィータは驚きザフィーラはレザードの実力を認める中、なのはは今までの戦況を見るやロングアーチと連絡を取った。 「どないした?なのは」 「はやてちゃんお願い!能力リミッターの解除を承認して!!」 「なんやて!?」 なのはの言葉に思わず椅子から飛び上がるはやて。 なのはの見立てではレザードはSランクの実力者、リミッターがかかっている自分達では歯が立たないと語る。 しかしはやては顎に手を当て考え込んでいた、そんなはやての態度になのははダメ押しとも言える言葉を放つ。 「今!この場でアイツを捕まえなきゃもっと被害者が増える!私や…スバルみたいな思いを受ける人が大勢出てくる!! それだけは……なんとしても防がなくっちゃ!!!」 なのはが放ったその言葉は、はやての心に深く響き頷くと意を決した。 「わかった、せやけど120分や、それ以上はアカン!えぇな」 「はやてちゃん!……120分もあれば十分だよ!!」 そう言って連絡を切るなのは、はやては椅子に座るなり一つ溜め息を吐くと机に肘を置き手を組むと考え込んでいた。 これは危険な賭である、何故ならこの先起きるであろう“未曾有の災厄”の事を考えれば、今此処で切り札である能力リミッターを解除するのは得策ではない。 だがその“未曾有の災厄”がレザードの手によって行われるものだとしたら、此処で逮捕する事によって未然に防ぐ事が出来るのかもしれない。 しかし的が外れれば切り札の無駄使い、更に此方の戦力を把握される可能性がある。 そんなハイリスクを背負ってでも、なのはの要望に答えたのは、はやてもまたなのはと同じ思いを感じていたからだ。 それにリミッターを解除したなのは達に適う者などいない……例え相手がSランクの実力者であっても… そう言い聞かせるかの如く自分の判断を信じ、はやてはモニターを見つめていた。 「みんな!はやてちゃんからリミッター解除の承認が下りたよ!!」 なのはのその一言に頷くと一斉にリミッターを解除するメンバー達。 リミッターの外れたリンカーコアは活性化し、魔力を作成していく。 そして体内は本来の魔力数値で満たされると一斉にレザードを睨むメンバーであった。 「成る程……今まではリミッターが掛かっていたのですか…ならばその本来の実力を見せて―――」 「随分と良く喋る男だ」 レザードの後方から声が響きレザードは振り向くと、其処にはシグナムがいつの間にか回り込んでおり、紫電一閃を放つ寸前であった。 レザードはとっさにシールドを展開するが、先程とは異なり呆気なく切り崩された。 シールドを崩されたレザードは後方へ飛びながらアイシクルエッジをシグナムの正面に向け撃ち出す、だがアイシクルエッジは次々と撃ち落とされていった。 その間にヴィータはレザードを見下ろす位置に立つと、自分の目の前に鉄球を8つ並べ次々と魔力が覆っていく。 そして魔力に覆われた鉄球は次々とグラーフアイゼンで撃ち抜いた、シュワルベフリーゲンと呼ばれる誘導弾である。 シュワルベフリーゲンがレザードに迫る中、ヴィータの攻撃を跳ね返そうとリフレクトソーサリーを展開させ攻撃を受け止める。 「くっ!重い!」 だがシュワルベフリーゲンは一つ一つが重く威力が高い為、的確にヴィータへ跳ね返す事が出来なかった。 レザードは仕方なくシュワルベフリーゲンを周囲に跳ね返している最中、上空からヴィータがラテーケンハンマーを振り下ろす。 レザードは先程と同様シールドを展開させるが、先程とは異なり容易く打ち砕かれた。 「まだまだぁ!!」 すると今度は先程の一撃の勢いを利用してその場でカートリッジを消費させるとヴィータは回転し、ラテーケンハンマーを連続で撃ち出そうとする。 だがレザードはヴィータが回転している隙をついて移送方陣でヴィータの後方上空へと移送した。 移送後レザードはヴィータに向けファイアランスを撃ち出すが、 ヴィータは回転を止め左手をかざすと三角形の盾パンツァーシルトを展開させて攻撃を防いだ。 「ザフィーラ!!」 「承知!!」 ヴィータの掛け声に呼応する様にザフィーラはレザードに迫っていく。 するとレザードはザフィーラに向けイグニートジャベリンを撃ち出す。 だがザフィーラは左手に障壁を展開させると先程とは異なりイグニートジャベリンを弾き飛ばしながらレザードの目の前まで向かう。 そして右手に魔力を乗せ突き抜けるように振り抜くが、レザードは半球体型のバリア型ガードレインフォースを展開させ攻撃を防いだ。 しかしザフィーラは気にも止めずバリアの上から何度も左右の拳を叩き付ける。 その衝撃はレザードにも伝わっており、更にバリアにヒビが生じ始めると、それを見たザフィーラは勝機とばかりに右手で左拳を包み込むように握り絞め振り上げた。 「小賢しい…」 レザードは一言呟くと振り下ろしに合わせてバックステップで回避、更に右手をザフィーラにかざした。 その瞬間ザフィーラの口の端がつり上がると、レザードは手足だけではなくで体中をバインドで縛られた。 「んっ!?これは…」 「掛かったな」 先程のザフィーラの攻撃は囮で本命はこのバインドによる拘束が目的であった。 まんまと掛かったレザードであったが、バインドを外そうと魔力を高める。 その間に目の前にいたザフィーラが退散すると、上空に光を感じレザードは目を向けた。 レザードから見て左側上空にエクシードを起動させたなのはと、右側上空でザンバーフォームを構えるフェイトの姿があった。 二人はカートリッジを二発消費すると、レイジングハートの前に流星のように魔力が収束し、バルティッシュの刀身には強烈な雷が蓄積していった。 そして――― 「スターライト……」 「プラズマザンバー……」 『ブレイカァァァー!!』 二人が声を上げた瞬間、魔力砲は解き放たれ桜色の魔力砲と金色の魔力砲は真っ直ぐレザードに向かい直撃した。 だが二人の攻撃はまだ終わってはいなかった。 二人は間を徐々に詰めて行き二人の背中が重なり合うほどまで詰め寄ると、デバイスを重ねこう叫んだ。 『ダブルブレイカァァァー!!』 次の瞬間、デバイスから撃ち出されていた魔力砲が混ざり合い、螺旋を描きながらレザードが縛られた場所を飲み込みそのまま大地に突き刺さる。 そして螺旋を描いた魔力砲が消えると、キノコ雲のような土煙を高々と立ち上らせたのであった。 その様子を二人は上空で見つめており、その二人を囲むようにシグナム、ヴィータ、ザフィーラが集まっていた。 「………凄い…これがリミッターを外したフェイトさん達の実力……」 一方地上ではスバル達と合流したエリオ達が隊長達の戦いを見守っていた。 そしてシャマルは先程はティアナの、今はスバルの疲労を回復させていた。 スバルは依然として呆然自失としており、みんなの呼びかけにすら反応しなかった。 ティアナはシャマルに事情を説明すると、シャマルはスバルを見つめ落ち込む表情を見せる。 すると今度は顔を背け苦い顔を醸し出していた。 シャマルは自分の無力さを噛み絞めていた、生まれて幾年月、風の癒し手と称され様々な怪我に携わってきた。 だが心の傷を癒やす事は出来ない、つまりスバルの痛みを癒せないのだ。 それでもせめてスバルの疲れた体を癒やす位はしようと静かなる癒しをかけていたのだ。 一方ティアナはシャマルにスバルの身を任せエリオ達と共に隊長達の戦いを見守っていた。 エリオは一言漏し目を輝かせて見守っており、キャロもまたフリードリヒを抱きかかえながら見守っていた。 二人の心には安堵感に満ち溢れていたが、その中でティアナは一人冷静に戦況を見据えていた。 おかしい、何かがおかしい…確かにリミッターを外した隊長達の力は凄まじくティアナの想像を超えていた。 加えてフェイトはザンバーフォームを起動させ、なのはに至っては短期決戦用のエクシードを使用している。 まさに“無敵を通り越して異常”な戦力、その異常な戦力を“たった一人”の魔導師に向けられている。 …寧ろ今の状況こそ異常では無いのかと考えるティアナ。 幾らあのレザードが強者であってもSランクオーバーもしくはそれに準する魔導師五人で相手にする程なのだろうか? もしそうならレザードはあの異常な戦力と対等の力を持っていることを指す。 そんな馬鹿げた事を考えつつも、なのはの姿を見上げる。 なのははあれ程の収束砲にコンビネーション攻撃を仕掛けたにも関わらず、なのはの瞳には未だ警戒の色が滲んでいた。 だとすれば、なのははレザードを倒したという確固たる手応えを感じてはいないのではないか? そんな有り得ない事を考えるも、背中に冷たいモノを感じるティアナであった。 一方舞上げられた土煙の中、その中央の場でレザードは大の字を描いて寝そべっていた。 レザードは上半身だけを起こすと手の感覚を調べる、次に自分の服装を調べた。 服は舞上げられた土煙のせいで砂を被っており、レザードは眼鏡に手を当て頭を横に振る。 「やれやれ…一張羅が台無しだ……」 そう答えるや空を見上げるレザード、空は未だ舞い上がった土煙に覆われており、太陽も朧気になっていた。 そこでレザードはモニターを開きルーテシアと連絡を取る。 「どうしたの博士?」 「ルーテシア、ガリューの方はどうなっていますか?」 「……………………」 その言葉に沈黙するルーテシア、レザードは首を傾げると意を決したように話し始めた。 ガリューは無事アグスタへの潜入に成功しスカリエッティの依頼品を無事に回収、 続いてレザードの依頼品を回収に向かったところ、一つは回収したのだが もう一つはある“ハプニング”により目下捜索中で暫く時間が掛かると告げた。 それを聞いたレザードは呆れるように頭に手を当て振る。 「仕方がありませんね、ではもう少し時間を稼ぎましょう……」 「大丈夫博士?ゼストを向かわせようか?」 「いえ…それには及びませんよ」 そう言うとルーテシアと別れの挨拶を交わすとレザードはモニターを消し、これからどうするか考えた。 彼女達の攻撃があの程度であれば、このままでも充分時間を稼ぐ事は出来る。 だがそうなると攻撃を全て受け止めなければならない、それにやられっぱなしというのも面白くない。 「やはり…リミッターを一つ解除するしかないですね」 考えを纏めたレザードはゆっくりと立ち上がり空を見上げていた。 一方上空では、なのはとフェイトを中心に舞い上がった土煙の様子を見つめていた。 だが未だ動きがない為かヴィータが業を煮やし問い掛ける。 「なぁシグナム、やったんじゃねぇか?」 「さぁ…どうだろうな、油断は出来ん」 「なのははどう思う?」 「……………………」 ヴィータの問い掛けに警戒を促すような答えを出すシグナムに、フェイトの呼び掛けに一切答えず土煙を見つめるなのは。 土煙も徐々に薄くなっていき地上が見え始めている中、地上にはレザードが膝あたりの砂を叩きつつなのは達を見上げていた。 その光景にやはり…といった様子でデバイスを構えるなのは、それを皮切りに他のメンバーも構え始める。 それを地上で見ていたレザードは眼鏡に手を当てこう言い放った。 「成る程…どうやら貴方達を侮っていたようですね…ならばこちらも……」 その言葉の後にレザードの足元から青白く光る五亡陣が現れると更に言い放った。 「ネクロノミコン、能力リミッター解除、モードII……グングニル!!」 するとレザードに掛けられていたリミッターが外れリンカーコアが活性化すると体はふわりと浮かび上がり体から青白い魔力が溢れ出す。 溢れ出した魔力は周りの木々を薙ぎ倒すと徐々に小さくなっていき右手に炎のような形で揺らめく。 レザードはその魔力をかき消すように振り払うと今度は左手に持っていた魔導書が輝きだした。 魔導書は柄の両端に巨大な両刃の刃が付いた槍へと変わりレザードの右手に収まった。 モードIIグングニル、かつてレザードが居た世界に存在する、 神の世界アスガルドを支える四宝の一つで、神の王オーディンが所有していた武器を模倣した形態である。 一方上空ではレザードの魔力に唖然としていた。 あれだけの魔力を保有していながら今までリミッターが掛かっていた事に。 おそらく今のレザードの魔力は自分達の想像を超えているであろう、だが此処で屈しる訳にはいかない。 そう隊長達は気を取り直しレザードを睨みつける。 そしてレザードは地上からなのは達を見上げこう述べた。 「では……最終幕を始めましょうか」 そしてなのは達に向けグングニルを振り払うと衝撃波を作り出し、衝撃波はなのは達に直撃した。 なのは達は叫び声を上げながら吹き飛ばされるが、すぐに体制を立て直し地上を睨みつける。 地上には既にレザードの姿はなく、なのは達はレザードを探していると更に上空にてレザードを発見する。 「野郎!いつの間に!」 「待て、私が行こう!」 ヴィータが飛び出そうとする中、シグナムに止められシグナムはレヴァンティンを構えた。 「レヴァンティン!カートリッジロード!!」 レヴァンティンからカートリッジが二発排出されると、刀身に紅蓮の炎が纏いレザードとの間合いを詰め切りかかる。 だがシグナムの紫電一閃はレザードのシールドに阻まれてしまう。 「ほぅ……そのデバイスの名はレヴァンティンと言うのですか…成る程…貴様の能力によって炎の魔剣を体現させている訳か」 「貴様!何を言っている!!」 「だが…我がグングニルと同様、オリジナルとは程遠い!!」 レザードは意味深な台詞を吐くとグングニルをシグナムに向け切り払う。 それによって発生した衝撃波がシグナムに直撃し吹き飛ばされた。 それを見たヴィータはレザードとの間合いを詰める。 ヴィータはグラーフアイゼンをギガントフォルムに変えるとカートリッジを二発消費させレザードに打ち込む。 ギガントハンマーと呼ばれるヴィータのフルドライブから繰り出される一撃である。 だがレザードはヴィータのギガントハンマーをグングニルで防いだ。 「バカな!アタシのギガントハンマーをデバイスで受け止めやがった!!」 「材質が違うのですよ」 そう言うとレザードの左手に青白く炎のように揺らめく魔力を纏わせるとヴィータにかざした。 「ダークセイヴァー」 次の瞬間、ヴィータの右下・左下・上後方に闇の刃が現れ、それぞれ右わき腹・左わき腹・延髄あたりを貫く。 更に右上・左上・下後方に先程と同様の闇の刃が現れると、右肩・左肩・腰のあたりを貫き、 またもや右下・左下・上後方に先程と同様の闇の刃が現れると同じく右わき腹・左わき腹・延髄あたりを貫いた。 「ヴィータちゃん!!」 「安心しなさい…非殺傷設定されていますから死にはしませんよ…痛みは伴いますが」 そう言うとヴィータを貫いた闇の刃が消え力なく落ちるヴィータ。 その間にザフィーラが正面から襲いかかる。 「おのれ!よくもヴィータを!!」 「次は貴方ですか……先程貴方には一杯食わされましたね」 そう言って手をかざすとザフィーラの手足に赤いバインドに、胴には青いバインドによって縛られた。 「くっ!これは!!」 「無駄ですよ、その赤いバインド、レデュースパワーは縛った対象の力を抑え、 青いバインド、レデュースガードは縛った対象の防御を抑える……その意味はわかりますね?」 そう言うとグングニルを振り上げるレザード、ザフィーラはバインドを外そうと力を込めるが思うように力が入らなかった。 ザフィーラはなす統べなくレザードの攻撃を受け吹き飛んだ。 すると今度はフェイトがトライデントスマッシャーをレザードに放つ。 最初に撃ち出された直射砲を軸に上下に直射砲が伸び、三本の直射砲がレザードに向かって襲いかかる。 だがレザードの左手に青白く炎のように揺らめく魔力を纏わせライトニングボルトを放つ。 ライトニングボルトはトライデントスマッシャーを打ち破りフェイトに直撃した。 すると今度はなのはがエクセリオンバスターを撃ち込む。 「エクセリオン……バスター!!」 「フッ……プリベントソーサリー」 するとエクセリオンバスターから黄色い魔力の鎖が現れ、巻き付くとエクセリオンバスターは徐々に拡散し消滅した。 なのはは驚く表情を見せるとレザードは得意気にバインドの説明を始めた。 プリベントソーサリー、レザードがこの世界に合わせた魔法で、縛った対象の魔力を封じる効果を持つという。 つまりそれは魔法を縛れば魔力の運動を止められ消滅し、 肉体を縛ればリンカーコアの動きを封じられ魔法が使えなくなると語る。 そしてレザードは眼鏡に手を当てると更に話しを続けた。 「どうしました?さっきまでの威勢は何処へ行ったんでしょう? それとも…フフッ犠牲者がでなければ実力が発揮出来ないとか?」 そう言うと左手を地上にかざすレザード、左手は先ほどと同様、魔力に覆われていた。 なのはとフェイトはレザードがかざす手の方へ目を向ける、すると其処にはティアナやエリオ達の姿があった。 まさか!といやな予感がしたなのはは、とっさにティアナ達に念話を送る。 (ティアナ!みんな!急いでその場か―――) 「…バーンストーム」 そう言うとレザードは指を鳴らすと纏っていた魔力が消える。 そしてスバルが居た場所を中心に直径数百メートルの部分が三度に分けて大爆発を起こし、その光景を目の当たりにするフェイト。 するとレザードはバーンストームの説明を始める、バーンストームは爆炎を利用した魔法、 そしてレザードの手によって非殺傷設定されている為、死ぬ事は無いと。 だがレザードの炎は特別で対象が気絶するか、かき消すか、そして非殺傷設定が解除されてあれば燃え尽きるかしないと、炎は消える事が無いと話す。 しかしバーンストームの跡地に残された炎は見る見ると消えて来ており、その状況に疑問を感じるレザード。 「おや?思いの外、炎の消えが早い……そうか!相手が弱すぎて最初の爆炎だけで気を失ったのか! ならば…その後に訪れるハズであった身を焼かれる苦しみを味わなくて済んだようですね」 そう言って高笑いを上げるレザード、フェイトは依然として跡地を見つめていた。 あの場にはエリオ達の姿もあった…それが一瞬にして消されたのである。 するとフェイトは怒りで目の瞳孔が開き、髪をふわりと逆立てると、ソニックムーブでレザードの後ろをとり、 ブリッツアクションを用いて腕の振りを早めたジェットザンバーを放つ。 だがレザードはとっさにシールドを展開させフェイトの攻撃を防ぐ。 互いの攻防により火花が散る中、フェイトはレザードを睨み付け吐き捨てるように叫んだ。 「アナタは!命をなんだと思っているんですか!!」 「ほぅ……“人形”が生意気にも命を語るか……」 その言葉に動揺を覚えるフェイト、その隙を付いてレザードはグングニルでフェイトの子宮辺りを突き刺す。 グングニルにはアームドデバイスと同様、非殺傷設定されてあれば肉体を傷つけず、 肉体を傷つけた際に生じるであろう痛みのみを与える効果を持っている。 「かぁ!?……はぁぁぁ……ぁぁ…」 「“人形”が…処女〈おとめ〉を失う時の様な喘ぎ声を上げるとは…な!」 そう言ってレザードは更にグングニルを深く突き刺し更に突き上げた。 グングニルによって深く突き上げられた痛みによって、フェイトは目を見開き涎を垂らしていた。 「はぅ!……ぁ…ぁぁああ!!」 「キツいですか?なぁに…すぐにこの感覚にも馴れます…よ!」 更に深く突き上げ、グングニルは尾てい骨辺りを超えて貫き、腰から刃を覗かせていた。 「カハァ!!」 「とは言え所詮はただの“人形”……貴方が相手では木偶と情交するに等しいか…」 「わた…しを…“人形”と……呼ぶな!!」 涎を垂らし目には涙を溜めながらも必死に抵抗するフェイト。 するとレザードはグングニルを引き抜きフェイトの顎を掴み、顔を近づけこう言い放った。 「“人形”と呼ばれるのがそんなに不服か?…ならばこう呼んでやろう……プロジェクトFの残滓よ」 「ッ!!!キッキサマ!!」 フェイトの怒りは頂点に達しレザードの手を振り払うとバルディッシュをまっすぐ振り下ろした。 だがレザードはフェイトの怒りの一撃をたやすく受け止めていた。 「そんな!フィールド系?…いや支援魔法!?」 「ご名答…正解した貴女にはコレを差し上げましょう…」 そう応えるとレザードはフェイトに手を向ける、手には魔力が纏われており、魔力は手のひらを介して球体へと変化、それは徐々に加速していった。 それを見つめるなのはは見たことがあった、いや確信していた、あれは自分の十八番とも言える魔法であると。 「確か……名は」 「フェイトちゃ――」 「ディバインバスターでしたか」 次の瞬間、レザードから青白いディバインバスターがフェイトに向け撃ち出された。 フェイトはディバインバスターに飲み込まれ吹き飛ばされていく。 だが後方でザフィーラがフェイトの救出に成功していた。 「何で!アナタがディバインバスターを!」 「ただの魔力を加速させて放出させるなど、私が出来ないとお思いで?」 レザードは様々な魔力変換が可能な存在、魔力を加速させて撃ち出すことなど造作もないと不敵な笑みを浮かべ話す。 その中レザードにルーテシアから念話が届く。 内容は今し方ガリューは目的の品を回収し無事アグスタを脱出、現在ルーテシアの元へ向かっているという。 (…わかりました、ではルーテシアはガリューが到着後すぐに転移して下さい、しんがりは私が務めましょう…) (わかった…やりすぎないでね) ルーテシアは一言残し念話を切る、それを確認したレザードは辺りを見渡すとなのはを中心にメンバーが募っていた。 レザードは一通り見渡すと肩をすくめこう言い放った。 「さて…貴方がたの実力も見えてきた頃ですし、そろそろ私は退散でもしますか」 「なっ逃げるの!それに…私達がそれを許すと思うの!!」 なのはのその言葉に大笑いするレザード、するとレザードは眼鏡に手を当てこう言い始める。 「これは面白い事を言う、貴女は自分がどのような状況かまるで解っていないのですね」 「それはどういう意味!」 「こう言う事ですよ」 そう言ってレザードは移送方陣で更に上空へと上がる。 なのは達は必死に追いかけているとレザードの足元に、 巨大な複数の環状で構成された多角形の魔法陣を展開、そして左手をなのは達に向け詠唱を始める。 「…闇の深淵にて重苦に藻掻き蠢く雷よ…」 するとレザードの目の前に黒い球体が姿を現す。 球体の中は幾つか稲光が見えていた、そしてレザードは更に詠唱を続ける。 「彼の者に驟雨の如く打ち付けよ!」 すると球体は見る見る膨らんでいきレザードの姿すら見えないほどにまで巨大化していた。 「あれは……まさか広域攻撃魔法か!?」 「こんな場所で撃ち出そうと言うの!」 なのは達は上空を見上げレザードの魔法を分析する。 するとレザードの声だけが響いてきた。 「安心なさい…非殺傷設定されてあります…ですので……」 レザードの姿は魔法に隠れ見えないが、不敵な笑みを浮かべているだろう声でこう告げた。 「存分に死の恐怖と苦痛を堪能して下さい…」 そしてグラビティブレスと叫ぶと漆黒の球体はなのは達に向かっていった。 なのは達は苦い顔をしながら迫ってくる球体を睨みつけると回避を否がす。 だがヴィータがそれに反発する、何故ならなのは達の後ろにはアグスタが存在していた。 アグスタの中にはまだ局員達が多数警備しており、今自分達が避けたらアグスタに直撃してしまうからだ。 するとザフィーラが一歩前に出ると障壁を最大にして展開、グラビティブレスを受け止めようとする。 その間になのは達はアグスタに残っている局員達に連絡を取ろうとした瞬間、 ザフィーラの障壁が脆くも打ち崩され、ザフィーラを飲み込んでいった。 更になのは達をも飲み込み、グラビティブレスは無情にもアグスタを包み込むように直撃した。 …グラビティブレスの中は詠唱如く、無数の雷が蠢きあい、内にあるモノ全てを驟雨の如く打ち付けていた。 暫くするとグラビティブレスは一つの稲光を残し消え、跡地にはアグスタが瓦礫の山となっており、一部は砂塵と化していた。 その様子を上空で見届けたレザードは眼鏡に手を当てながら口を開く。 「我ながら中々の威力ですね」 そして高笑いをしながら移送方陣でその場を後にした。 一方、一部始終見届けていたロングアーチは静寂に包まれていた。 誰もが今まで見ていた光景が偽りであると考えるその中で、はやての檄が飛ぶ。 「何を惚けとる!早よ現場に救護班を急行させ!いくら非殺傷設定の攻撃だとしても、あの量の瓦礫に埋められたら圧死か窒息死してまう!!」 その言葉に端を発し一斉に動き出すロングアーチ、その中はやては右手を握ると思いっきり机を叩く。 そして苦い表情を表しながらモニターを見つめ吐き捨てるかのように言葉を口にした。 「私の……私の判断ミスや!!」 一方ゆりかごに戻ったレザードは通路を歩いていると、ルーテシアがレザードの帰りを待っていた。 ルーテシアはスカリエッティに頼まれた品物を渡しナンバーズにも品物を渡し、残りはレザードの品物だけだと話す。 ルーテシアはレザードに一つのパピルスを渡す、パピルスには設計図のような物が描かれていた。 そしてルーテシアはその品物が何なのか問いかけた。 「博士…それ何なの?」 「これですか?」 ルーテシアの疑問に対し、パピルスに目を通しつつ笑みを浮かべこう答えた。 「“ゴーレム”の設計図ですよ…」 前へ 目次へ 次へ
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本SSはグロテスクな部分がありますので、ご注意ください。 リリカルVSプレデター (前編) 広大な宇宙には人類が知り及ばぬモノが数多と存在する。 あるいは未知の異次元世界であり、あるいは思念のみで形成された意識体であり……そしてあるいは人類以外の知的生命体。 そう、“彼”は正に人類以外の知的生命体の種族だった。 爬虫類系生物から進化した彼の種族には、他の知的生命体にはない野蛮で常軌を逸した風習がある。 それは“狩猟”、それも生存の為の捕食としての狩ではない。それは生き甲斐とさえ呼べるほどの純然たる闘争欲求を満たす為だけのモノ、ただ殺す為の殺し。 彼の種は永き時に渡りこの狩りを脈々と行ってきた、あらゆる惑星のあらゆる生命体を相手に。 そして今回彼が向かったのはとある惑星、人型哺乳類種の支配する星だった。 彼は鈍色に輝く小型宇宙艇の中から目標の惑星を見た。眼下に広がる蒼は海の色、生命を育む海のものである。 だが彼の視界には鮮やかな蒼など映らない、当たり前だ彼の種族の可視光線に青色は見えないのだから。 彼は赤だらけの視界で目の前の星を見つめる。 この惑星の形態は一般的な通常生命体が生存している星、特徴として魔法体系の技術が進歩しているらしい。 データによれば他世界へ超空間を用いて移動する程度には科学技術もあるようだ、まあそれなりに知性はある。 彼が今度の猟場にここを選んだのはまったくの気紛れだった、そして胸中で『手ごたえのある獲物がいると良い』と密かに思う。 惑星の情報や装備を確認すると、彼は宇宙艇のコントロールパネルに大気圏突入の為のコードを打ち込んだ。 大気圏に突入した船が向かう先はこの星の中でも取り分け大きな都市“クラナガン”の上空。 こうして、ミッドチルダに最強の狩人が舞い降りた。 △ 閑静な住宅街、その中の一軒の家に人だかりができている。 近所の住人にマスコミ等の報道関係者、多くの野次馬が平和な町で起こった血生臭い事件見たさに集まったのだ。 家の中には捜査を担当している陸士108部隊が、事件現場を調査している。 そして108部隊に所属する少女、ギンガ・ナカジマは鼻腔を付く凄まじい悪臭に耐え難い吐き気を覚えていた。 それは、たっぷりの血臭に外にぶち撒けられた内臓が長時間放置されて腐った臭い。 屠殺場で動物を殺し解体したような壮絶な異臭だった。 だが事件を捜査する立場上、臭い如きに屈するわけにはいかない。 ギンガは意を決して事件の被害者の遺体がある部屋へと足を踏み入れた。 そして、朝食を食べ過ぎた事をこれでもかと後悔する。 「ウプッ!」 胃から込み上げてくる酸味を含んだ味が口内に広がる、嘔吐を耐えるのがこれほど苦痛だと感じた事は生まれてこの方無かった。 口元をハンカチで押さえて必死に喉を上がってくる嘔吐物を押さえ込む。 目元には幾筋かの涙も流れている、そんな彼女の肩に上司の男性がそっと手を置いた。 陸士108部隊捜査主任ラッド・カルタス、ギンガより遥かに事件慣れした彼は凄惨な現場の様にも顔色を変えず彼女に心配そうに声をかけた。 「大丈夫か? 無理に見る必要はないんだぞ?」 「ええ、大丈夫です……これくらいでへばってられませんから」 青い顔でそう言っても説得力などなかったが、ナカジマ家の頑固さは部隊長のゲンヤとの付き合いで嫌と言うほど知っていた。 恐らく自分がいくら言ってもギンガは現場をしっかり検分するだろう、彼女のその様子にカルタスはいくらか諦念をこめた溜息を吐く。 「分かった、止めはしないが無理はするなよ?」 「はい」 自分の身を案じてくれている彼の言葉に、ギンガは青い顔で儚げな微笑を浮かべた。 だがカルタスは優しい言葉だけでなく、しっかり捜査主任としての注意も忘れなかった。 「それと、吐くならなるべく部屋の隅でやってくれ。せっかくの現場が汚れる」 「うう……はい」 「では行くぞ、遺体は向こうだ」 カルタスはそう言うと、ギンガを先導するように歩き出す。そして、凄まじい死臭の元である部屋の奥に行けばそこには地獄絵図が広がっていた。 目の前の光景にギンガの中で吐き気と嫌悪感と恐怖が最高潮を迎える。口の中に満ちた酸っぱい味を抑えるのはもう我慢の限界だった。 「ギンガ、吐くなら向こうだ」 彼女の様子を察したカルタスは壁の方を指差す。調査するべき物の無い壁際ならば捜査官の嘔吐物がいくらかあっても問題ないという判断での指示だ。 ギンガは彼に従い、壁の方に駆けてそのまま胃の中身をぶちまけた。 普段は冷静沈着な彼女の乙女らしい様子にカルタスはいくらか苦笑しつつ、そっとハンカチを渡す。 「だから無理するなと言ったろ?」 「す……すいません……」 「良いからこれで拭いて、せっかくの綺麗な顔が台無しだ」 「はい……ありがとうございます……」 ギンガは彼から受け取ったハンカチで口元を拭い、涙を零しながら頭を下げた。 近代ベルカ式の使い手で、108部隊有数の猛者である彼女の弱弱しい姿に思わずカルタスの口元に苦笑が宿る。 「まあ、無理もないか……こんな現場じゃ……」 ギンガにも聞こえない程度の声でそう漏らしながら振り向けば、そこにはこの事件の被害者の遺体があった。 それはワイヤーで逆さに吊るし上げられており、全身の皮を剥がれていた。 遺体は、本来人体を覆うべき外皮を全て剥ぎ落とされており皮下組織の下にある筋繊維が剥き出しになっている。 外皮を剥がれた屍はさらに腹部を切り裂かれて内臓をぶち撒けられ、滴る赤で大きな血溜まりと臓物の山が形成していた。 悪臭の元はこの腐った内臓、そこには蝿がたかり蛆が湧いている。鑑識班が死亡状況を調べる為に採取したと言うのにまだ屍肉食の虫共は骸を貪っていた。 そしてもう一箇所目を引く場所、それが頭部だった。 遺体の頭は普段あるべき形、頭蓋骨の持つ丸みを失っている。それもその筈だ、屍からは頭蓋骨が抜き去られていたのだから。 それは見事な手際だった、遺体の頭部が形状をある程度保ったまま中身の頭蓋だけ取り除かれているのだ。 後頭部から顔面の前面までパックリと開かれた鋭利な割れ目からは空虚な闇だけが広がっている。 正に地獄絵図としか形容できない凄惨な状態。例えギンガでなくとも嘔吐を催さずにはいられないだろう。 凄惨極まる悪鬼の所業、しかしこんな事件がクラナガンで起こるのは初めてではない。 「これで20件目か……いったい誰がこんな事をしているんだ?」 △ 夜のネオンが光る時刻、時空管理局ミッドチルダ地上本部施設の一角、局員がよく利用するカフェに一人の女性がいた。 燃えるような鮮やかな緋色の髪をポニーテールに結い、女性的な美しさに満ちたたおやかな肢体を茶色の管理局制服で包んだ美女。 この女性こそ、地上本部首都航空隊に所属する夜天の守護騎士シグナムである。 シグナムはテーブル席に腰掛け、新聞片手にホットコーヒーで満ちたカップを傾けていた。 休憩時間にここでブラックコーヒーを飲みながらゆっくりと過ごすのは彼女の日課である。 今日もそうしてコーヒーの味を楽しみながら、紙面で報じられている昨今の事件などに目を通していた。 そんな彼女に一人の男の影が近寄り、テーブルの隣の席を引いた。 「隣、良いっすか?」 「ああ、構わんぞ」 茶髪の青年に彼女はそう答える、青年は了承を得ると隣に腰掛けて彼女と同じブラックコーヒーを注文した。 彼は同じ部隊に所属するシグナムの部下ヴァイス・グランセニック、狙撃手兼ヘリパイロット。 入隊時からシグナムの下に就き、彼女の事を“姐さん”と呼び慕う好青年である。 こうして彼と暇な時間を共にするのも良くある光景だ。 ヴァイスはウェイターが持って来たコーヒーを啜りながら、彼女の読んでいる新聞を横合いから眺めた。 「何か面白い事でも載ってます?」 「ん? ああ、最近クラナガンで多発している連続殺人事件の事がな……」 クラナガン魔道師連続殺人事件、それはここ数ヶ月間クラナガンを恐怖のどん底に落としている怪事件だった。 殺されるのは決まってデバイスを持った者、それも屈強な武装局員ばかりが被害にあっている。 そして被害者の遺体は皆、逆さに吊るされたうえに生皮を剥がれ内臓を抜かれ頭蓋を奪われ、凄惨極まる状態になっているらしい。 起きた事件は20件以上、被害者は30人以上にも上る。 事件を担当している陸士108部隊に所属するギンガの話では“この世のものとも思えぬ所業”だそうだ。 事件現場周辺で“透明の怪物を見た”とか“悪魔が人を殺していた”等の目撃証言が度々報告される事から、俗な雑誌では悪魔の仕業とすら書かれていた。 また奇妙な事に、現場近くに居合わせた女性や子供そして重篤な病気を疾病した者は誰一人として殺されていないのも事件の特徴だった。 「また起きたみたいっすね、その事件」 「ああ」 「やっぱテロリストとか反管理体制主義者の仕業っすかねぇ」 「いや、それはないだろう。それならば犯行声明が出る」 「じゃあ異常者とか?」 「かもな……」 二人がそんな会話をしているところに、突如としてデバイスからけたたましいアラーム音が鳴り響く。 デバイスを取り出してみれば緊急招集のアラートが表示されている、どうやらコーヒーブレイクは終わりらしい。 「さて、休憩時間は終わりのようだ」 「みたいっすね」 二人はそう言うと席を立ち、部隊のヘリ格納庫へと向かった。この日最強最悪の狩人に出会うとも知らずに。 △ 夜の闇の中で煌めく光があった。 クラナガンの都市部から幾らか離れた場所にある廃棄都市区画、無数の朽ち果てたビルがあるそこで数多の火の花が咲いているのだ。 あるいは銃口から咲き誇る銃火(マズルブラスト)であり、あるいは曳光弾が闇を切り裂く閃光であり、あるいは魔力弾が作り出す光だった。 それはある犯罪者集団、先ほど大規模な強盗事件を起こした無法者共と彼らを逮捕する為の来た武装隊との戦いである。 強盗共は銃火器で武装した者が30、デバイスで武装した者が10という大所帯。そのうえ全員が相応の訓練や実戦を積んでいるらしい。 手練れの武装隊も攻めきれずに苦戦しているようだった。 「オラオラオラ!! 死にさらせ糞がぁっ!!」 ツバを撒き散らして叫びながら強盗団の一人が遮蔽物から身体を出して銃を乱射。大口径の軽機関銃の銃口からオレンジ色の銃火と共に大量の弾丸が吐き出される。 撃ち出された弾丸の内何発かはフルオートの反動で標的となった武装局員を外れて周囲のコンクリート壁にめり込んだが、大半は狙い通りにきっちりと命中した。 武装局員の展開した防御障壁を高硬度の金属製弾芯を有して高貫通能力を持つライフル弾が削っていき、十発目にして完全に破壊。 バリアジャケットで覆われた武装局員の身体にめり込んだ。 「がはぁっ!」 叫びと共に吐血、内臓深くにこそ達しなかったものの銃弾のもたらす人体破壊は絶大だった。 たたらを踏んだ後に、被弾した武装局員の男はその場で倒れる。激戦地で倒れた彼は正に格好の的。 血に餓えた犯罪者共はその狂った照星(サイト)の照準で狙いを付けた。 「マイケル!!」 絶体絶命の仲間に武装局員の一人が危険を顧みず、遮蔽物にしていた廃車の陰から顔を出して叫んだ。 引き金が絞られ、銃弾の雷管が叩かれて薬莢に詰められた遅燃性火薬が燃焼するまで一刹那。 人の命が無造作に奪われる寸前、その時一つの影が舞い踊った。 瞬間けたたましい音と共に炸裂する銃声、金色の薬莢を地面に転がしながら硝煙と銃弾の狂想曲を織り成す。 絶命必至の過剰殺傷、着弾の衝撃で巻き上がる土煙、勝利の愉悦に銃撃を行った男は下卑た汚い笑いを浮かべて口元にだらしなく唾液まで垂らした。 だが、煙が晴れた時現れたのはミンチになった死体ではなく燃えるような緋色の髪を揺らした美女の姿。 剣を片手に立つその姿はさながら戦場に舞い降りた戦の女神か、形容し難い美しさだった。 「ナニ!?」 男の口から思わずそんな呟きが漏れる。突然割って入って女が現れたのもあるが、これだけの銃弾を受けたというのに相手が無傷であるという事実が衝撃を与えた。 彼女はただ正面から銃弾を受け止めたのではない、銃弾の軌道を反らす為に傾斜を付けた高硬度障壁を多重展開して受け流したのだ。 よっぽど腕の立つ魔道師でもなければこんな芸当はできないだろう。故に男に与えた驚愕は深い。 男は手にした軽機関銃では相手を破れぬと即座に判断、背に担いでいた個人携帯用の使い捨て式ロケットランチャーに手を伸ばした。 「遅い!!」 女性は叫ぶと同時に跳躍、飛行魔法を行使して相手に高速で接近する。既に男は彼女の間合いの内にいた。 鮮やかな緋色の髪を揺らし、宙を舞いながら横薙ぎに刃を振るう様は幻想的な美しさすら有している。 そしてランチャーを発射する為に安全ピンを外す暇すら与えられず、男に彼女の振るった炎の刃が一閃。 男の意識は燃える刃で闇の底へと刈り落とされる。手にした銃火器を地に落としながら、男の身体は倒れ付した。 「安心しろ、殺しはせん」 彼女はそう言いながら、剣に這わせた魔力の炎を払う。 武装局員の仕事は犯人を殺傷する事でなく無力化して捕縛する事だ、絶命せぬように手心は加える。 そんな彼女に、先ほど銃弾に倒れた武装局員を介抱しながら隊員が声をかけた。 「すいませんシグナム隊長」 「気にするな、それより早くマイヤーズを医療班の元へ連れて行け」 「ですが、隊長だけ残してはいけません」 「ん? 誰が一人と言った?」 部下の言葉にシグナムが答えた刹那、高出力の魔力弾が発射される音が鳴り響く。 何が起こったのかと周囲を見渡せば、100メートルほど離れたビルの屋上で倒れる影が一つ。 それはシグナム達にロケットランチャーの狙いを定めていた強盗団の一人だった。 「ヴァイスがいる」 彼女がそう言って空に顔を向ければ、ヘリの後部ハッチから狙撃銃の銃身を覗かせてこちらを見下ろす狙撃手が一人いた。 ヴァイスは200メートル以上離れた場所をホバリングし空中静止しているヘリから見事な狙撃を見せた、正にエース級の腕前である。 「私はヴァイスと一緒に先行した部隊と合流する、早く撤退しろ」 「は、はい! お気をつけて」 負傷した仲間を担いで撤退する部下に一言残し、シグナムは先行して強盗団と戦っている部隊の元へと駆け出した。 手にした剣に炎を纏わせポニーテールに結われた緋色の髪をたなびかせて美しき女騎士がさらに激しい戦場へ向かう。 そして、ビルの一角からそんな彼女を見つめる狩人が一人。 それはまるで陽炎だった、特殊なフィールド発生させて光を曲げて自身の姿を隠す擬態能力、光学迷彩によるステルス化である。 彼のヘルメットの機能が赤外線によって熱分布を映像化したサーモグラフィによってシグナムの姿を映し出す。 狩人はその目で獲物に狙いを定めた、絶世の美女にして勇ましい女騎士を。 今しがた離れた場所で戦闘を行っている者達も含めて、どうやら今夜の狩りは賑やかになりそうだ。 異星より来た狩人は予想よりも遥かに多くそして狩り甲斐のありそうな獲物に胸を熱く滾らせた。 続く。 目次へ 次へ
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高町家の末っ子、高町なのはの朝は早い。 なのはは寝ぼけ眼をこすりながら立ち上がった。 「おはよう、レイジングハート」 レイジングハートに朝の挨拶をすませ、着替えを始める。 今日は寒そうなので暖かい服を選んだ。 着替え終えた後、魔法の練習を行うため桜台・登山道を目指す。 まだ日も昇っていない薄暗い海鳴市を一人歩く。 (う~、もうちょっと服を着てくれば良かったかな?) 予想を越える寒さになのはは体を震わせつつ先を急ぐ。 それから15分後、ようやく登山道に辿り着く。ここまで来れば残りは少しだ。 なのはは元気良く登山道を登り始める。 それと同時に日が昇り始め薄暗かった海鳴市が段々と明るくなっていく。 その光景を登山道が眺めるなのは。 (……綺麗だなぁ) なのははこの景色が大好きだった。 日光の反射によりキラキラと光る宝石のような海鳴市。 まるで、早起きした自分への神様からのプレゼントのように感じる。 そんな景色を見ながら歩を進めていくといつもの場所についた。 そして、いつものようにエリアサーチを行う。 エリアサーチを行いながらなのはは思う。 (ヴァッシュさんを見つけた時も今日みたいに寒かったなぁ……) ――早いものでヴァッシュさんが高町家で生活するようになって一週間がたった。 ヴァッシュさんも段々と翠屋での仕事にも慣れ、なかなか楽しそうにアルバイトをしている。 でも片腕が無いのであまりお客さんの前出る仕事はしていない。もっぱら、厨房で皿洗いやケーキの装飾などをしている。 ……それと、これはお姉ちゃんから聞いたことだけど、ヴァッシュさんは最近、翠屋に来る女子高生の間で人気になっているらしい。 なんでも『厨房にいる隠れ美男子』と呼ばれ密かに思いを寄せる人までいるらしい。 そのことをヴァッシュさんに言ったら、手を叩いて喜んでいた。 なのはは、その時のヴァッシュの様子を思い出し、おもわず笑ってしまう。 『周辺に人の反応はありません』 そんななのはにエリアサーチを終えたレイジングハートが声をかける。 「よし、それじゃ頑張ろっか。それで、今日はどんな訓練するの?」 『今日は広域防御魔法の練習をしましょうか』 「うん、分かった」 なのははコートとレイジングハートをベンチの上に置き、広場の中央へと進む。 そして、立ち止まり目をつぶる。 深く息を吸い、集中力を高めていく。 魔法を使用する上で大事なことは集中すること。 集中力が切れれば魔法が暴発することだってあり得る。 ――それは分かっている。分かっているんだけど、どうも上手く集中出来ない。 最近はいつもそうだ。何故か集中することができない。それは魔法に限ったことでは無く、勉強の時や遊んでいる時もそうだ。 この前もアリサちゃんやすずかちゃんに心配された。 ――何でだろう? いや、分かっている。 自分はあることで悩んでいる。 『……今日は止めときましょう、マスター』 「えっ?」 いつの間にか全く違うことを考えていたなのはに飛んできたレイジングハートからの言葉。 その意味が分からずつい聞き返してしまう。 『今の状態で魔法を使用しても失敗するだけです』 「そ、そんなこと……」 『いえ、失敗します』 なのはの言葉を遮りレイジングハートは続ける。 『先程のマスターは明らかに集中力を欠いていました。そんな状態では成功するわけがありません』 辛辣な言葉を飛ばしてくるレイジングハートになのはは一言も言い返せない。 『どうしたんですか、マスター?最近様子が変ですよ』 普段レイジングハートはこんなに喋る子ではない。 そのレイジングハートがここまで言うということは自分は相当な状態なのだろう。 『……ヴァッシュ・ザ・スタンピードのことですか』 その言葉に驚くなのは。 「なんで分かったの……?」 『マスターの様子を見ていれば分かります』 その言葉になのはは顔を歪める。そしてうつむき、ポツリと呟く。 「……分からないの。管理局にヴァッシュさんのことを伝えた方がいいのか、伝えない方がいいのか……」 ――なのはは悩んでいた。 ヴァッシュに管理局のことを伝えるべきか、伝えないべきか。 ――ヴァッシュさんは高町家に残ってくれた。 それはとても嬉しいことだ。……でも、それはずっとでは無い。 管理局にヴァッシュさんのことを伝えたらすぐにではないにしろ、ヴァッシュさんの世界は見つかると思う。 そして、自分の世界へ戻る方法が分かればヴァッシュさんはあの時と同じように悩むだろう。元の世界に戻るか、このまま高町家に残るか、を。 あの時のヴァッシュさんはとても苦しそうだった。 ――あんなヴァッシュさんを見るのはもう嫌だ。 でも、管理局にヴァッシュさんのことを伝えなかったら、ヴァッシュさんは一生元の世界に戻ることはできないと思う。異世界に帰るということはそれほどのことだ。 ――それをヴァッシュさんが喜ぶのか? もちろん自分にとっては喜ばしいことだ。 でもヴァッシュさんがそれを望むのか。それが分からない。 あの時は高町家に残る道を選んでくれたけど、あの時のヴァッシュさんには並々ならぬ覚悟を感じた。 その覚悟がヴァッシュさんを辛い世界で命を賭けた旅をさせているんだと思う。 その覚悟のことを知らない自分がヴァッシュさんの道を閉ざして良いのか? ――それがなのはには判断出来ない。 『……マスター、家に戻りましょう。今日は休日です、ゆっくりと休んで下さい』 レイジングハートは何も答えてくれない。 それはそうだ。これは自分が考えなくてはいけないことだ。 そう、ヴァッシュさんを引き止めた自分が。 「……そうだね。戻ってからゆっくり考えよっか」 なのはは笑みを作る。 レイジングハートを心配させないように。 だが、その笑みを見てレイジングハートの不安はつのる。 なのははそんなレイジングハートに気づくことなく、歩き始める。 ヴァッシュのことで頭を悩ませながら。 ■□■□ 「おはよう!」 家に着いたなのはが最初に見たのは笑いながら片手をあげるヴァッシュの姿だった。 まだ朝早くなのに元気な人だ。 「……おはよう、ヴァッシュさん」 陽気なヴァッシュとは対称的になのはは暗い。 そんななのはにヴァッシュが心配そうな顔をする。 「どうしたんだい?何か元気がないみたいだけど」 「な、なんでもないよ!」 なのはは慌ててごまかし笑いを浮かべる。 「……だったらいいんだけど」 訝しげな眼でなのはを見つめるヴァッシュ。 「そ、それよりヴァッシュさん、早起きですね!」 そんなヴァッシュを見てなのはは話題を変える。 「まぁね。前の生活で馴れちゃったからかなぁ、つい早起きしちゃうんだよ」 なのはの気持ちを察したのかヴァッシュもその話題にのる。 「へ~そうなんですか?」 「まぁ、早起きは三文の得ってね。早起きは良いことだよ」 ヴァッシュはヘラヘラと笑いながらそう言う。 だが、なのははこの言葉に対し―― 「……ヴァッシュさん、お年寄りみたい」 ――爆弾を落とした。 しかも、恐ろしい事にこの天然娘は自分が爆弾を放ったことに気付いていない。 「ヴッ!」 ヴァッシュの動きが止まる。 そりゃあ百数十年も生きてはいる。こんなことを言われたことが無いわけではない。……だが、これだけ純粋な子に言われるとショックだ。 ――負けるなヴァッシュ!幾度となく死線をくぐり抜けてきたお前だったら耐えられるさ! 自分自身に活を入れ、何とか気持ちを立て直すヴァッシュ。 だが、それも―― 「あ、そーいえばお兄ちゃんとお姉ちゃんも言ってたよ。ヴァッシュさんがお年寄りみたいだって」 ――再び投下された爆弾に粉砕された。 まさに会心の一撃。 何とか耐えていたヴァッシュもその言葉に崩れ落ちる。 「わ、わ、どうしたの!?ヴァッシュさん!」 いきなり机に突っ伏したヴァッシュを見て、なのは驚く。 「……いやいや、全然気にしてないよ……うん」 それから数分間ヴァッシュが立ち直ることはなかった。 ■□■□ 「……あ、そういえばなのは宛てでこんなのが届いてたよ」 ようやく立ち直ったヴァッシュはそう言い、懐からある物を取り出した。 「フェイト……って書いてあるのかな?」 それは小さな小包だった。 それを見てなのはは目を輝かせる。 「フェイトちゃんからだ!」 「フェイト?誰だい、それ?」 「私の友達です。……今は遠くにいて会えないけど」 なのははヴァッシュから小包――フェイトからのビデオメールを受け取ると嬉しそうにそれを見つめる。 ヴァッシュはそんななのはを見て理解した。 フェイトという子となのはがどれほど深い友情で結ばれてるかを。 「……僕も会ってみたいなぁ」 「なら今度遊びに来る時紹介しますよ!」 「本当かい?いや~楽しみだなぁ」 ヴァッシュはそう言い机の上に置いてあった朝刊を広げ読み始める。 ――今では楽々と新聞を呼んでいるが、ヴァッシュさんは全くと言っていい程、日本語の読み書きが出来なかった。 聞いたり話したりは日本人と見紛うくらい上手いんだけど、何故か読み書きになるとサッパリになってしまう。 まぁ、異世界の人なんだから仕方がないのかもしれないけど……。 それとお金の単位も元の世界と違うらしく、その事にも四苦八苦していた。 だが、驚いたのはここからだった。 何と、ヴァッシュさんは二週間で日本語の読み書きをほぼマスターしてしまったのだ。 これにはお父さんやお母さん、お兄ちゃん達も驚いていた。 当のヴァッシュさんも驚いていて、「いや~僕には勉強の才能があるのかもね」などとお気楽なことを言っていた。 今では新聞を読んだり、テレビを見たりしながらメキメキとこの世界の知識を身に付けている。 (フェイトちゃんもヴァッシュさんと会ったら喜んでくれるかな?) 黙々と新聞を読むヴァッシュを見ながらなのはは考える。 フェイトちゃんは少し内向的だけどヴァッシュさんとなら直ぐに仲良くなれる気がする。 ふと新聞から顔を上げたヴァッシュさんと目があった。微笑みかけてくる。 見ているものも和やかな気持ちになる笑み。 それを見てなのはは嬉しくなる。 ――ヴァッシュが毎日を楽しそうに過ごしている。 ――あの時のつらそうな顔はもうしていない。 それが嬉しい。 それどころか、ヴァッシュさんが来てくれたお陰で騒がしかった高町家ももっと騒がしく、そして楽しくなった。 ――ずっとこの日々が続いてくれれば。 心の底からそう思う。 そこまで考えなのはの顔に暗い色が灯る。 ――でも、分かってもいる。ヴァッシュさんは異世界の人だ。いつかはこの楽しい日々も終わりを告げる。 だけど、私が管理局に伝えなければ?この日々は終わらないかもしれない。 ――ヴァッシュさんはそれで良いと思うのか? 先ほど、レイジングハートに話した悩みがまた頭の中に浮かんでくる。 さっきまでのとても楽しい気分が段々と暗くなっていく。 「どうしたんだい?」 いきなりヴァッシュさんに話しかけられた。 その顔はどこか心配そう。 「別に何でもないよ」 それに対しなのはは何でもない、と言うように笑いかける。 その心配させないための微笑みが他人を余計心配させることを知らずに。 ■□■□ 「お使い……ですか?」 昼飯を食べ終わり束の間の休憩を味わっていたヴァッシュはそんな言葉を発しながら士郎を見た。 士郎から告げられたことは単純明快。 午後は厨房に入らなくていいのでお使いに行ってきてくれないか?とのこと。 別段断る理由もないが、何故この忙しくなる休日の午後から? 「でも、これから忙しくなるんじゃないんですか?」 その質問に士郎は手を振り答える。 「大丈夫さ。ヴァッシュ君はこの三週間、頑張ってくれたんだ。たまには休暇をあげようと思ってな」 そこで士郎は言葉を切ると台所で桃子の手伝いをしているなのはの方を見る。 「……それに最近なのはの様子が変だろ?出来れば元気づけて欲しいんだが……」 どうやら、そっちが本命らしい。 「そういうことなら任せといて下さい!」 ヴァッシュはドンと胸を叩き、にこやかな笑みを浮かべ承諾する。 (そうと決まれば善は急げだ) 「なのは、ちょっといいかい?」 「どうしたの、ヴァッシュさん?」 いきなり呼ばれたことに少し驚きながら洗い物から顔を上げるなのは。 「店長からの指示でね。ちょっとお使いに付き合ってくれないかい?」 「別にいいですけど……」 少し戸惑った顔でなのははそう呟く。 「よし!なら早速行こうか」 威勢良くヴァッシュは立ち上がる。そして二人は休日の海鳴市に繰り出していった。 ■□■□ 「え~っと、士郎さんから頼まれたのは……と」 「出来るだけ安いのを選んで下さいね!」 「大丈夫、大丈夫」 カートを押すなのはの横で、ヴァッシュが楽しそうに、野菜や食料をカゴの中へと入れていく。 鮮やかな金髪と左腕が無いことも重なり、相当他の人に注目されているが、ヴァッシュはそんなことを気にせずにポイポイと商品を手に取る。 なのははヴァッシュに合わせカートを押して行く。 「それにしてもこのデパートっていうのは面白いねぇ」 周囲を眺めヴァッシュは感嘆の声を上げる。 「これくらいのデパートだったらどこにでもありますよ」 「そうなのかい!?いや~スゴいなぁ!僕の世界にはこういうのが無かったからね」 楽しそうに歩くヴァッシュが、なのはにはまるで子供みたいに見えた。 「それに魚なんて見たこともなかったし」 ヴァッシュがカゴに入っている魚を指差しそう言う。 「そうなんですか?」 「うん。僕の世界では海っていうもの自体が存在しなかったからね」 「それなら今度、お母さんにお魚料理作ってもらいましょう!」 「いいねぇ~」 そんな他愛もない事を話ながら二人は買い物を続けていった。 ――楽しい。 なのはは正直にそう思った。 ヴァッシュさんの笑顔を見ているだけでこちらもつられて笑ってしまう。 こうしていると本当にヴァッシュさんをあの時引き止めていて良かったと思う。 ――だが、それと同時に再びあの悩みが頭の中に浮かんでくる。 『ヴァッシュさんのことを管理局に伝えるか、伝えないか』 (ダメだよ……!ヴァッシュさんもいるのにそんなこと考えてちゃ!) せっかくの楽しい気分が台無しになってしまう。 なのははその考えを振り払おうと頭を振る。 ――でも、いいの? 心の中で声が響く。 ――このまま答えを出すのをズルズルと引き伸ばして、本当にいいの? それはもう一人の自分が語りかけているかのように感じた。 ――そ、それは……。 ――ちゃんとヴァッシュさんに聞かなくちゃダメだよ。 ――で、でも、それじゃあ、またヴァッシュさんが苦しむんだよ!そんなの見たくない! ――……そうやって逃げるの? ――え? ――それは逃げてるだけだよ。それじゃあダメ。ちゃんとヴァッシュさんに聞かなくちゃ。ヴァッシュさんは悩むかもしれない、苦しむかもしれない。だけどその苦しみを通らなくちゃヴァッシュさんは先には進めないんだよ……。 ――で、でも……。 「もしも~し、聞いてるかい?」 「ふぇ!?ど、どうしたの!?」 ヴァッシュに話しかけられなのはは思考の海から急浮上させられた。 「なんかボーっとしてたよ」 「そ、そうかな?」 「あ、もしかして疲れたのかい?だったら言ってくれればいいのに」 そう言うとヴァッシュは買い物リストと山のようなカゴの中身を見比べる。 「……うん。頼まれたものは全部あるね。んじゃ行こうか」 ヴァッシュは微笑みながらそう言いカートを押し始める。 それなりに混んでいるのにそれをものともせずにスイスイと進んでいく。 ――どうすればいいんだろう? ヴァッシュを追わずになのはは考える。 ――まるで冷静で大人な自分と会話していたかのようだった。 どちらか正しいのかは分かっている。 でも、拒否してしまう、それが逃げだと分っていても。 「お~い!迷子になっちゃうぞ~!」 ヴァッシュさんがレジに並びながらこちらに手を振っている。 なのはは陰鬱とした気分のままヴァッシュの元へと向かった。 ■□■□ 会計をすませると、ヴァッシュさんがクレープを食べないかと進めてきた。なんでも自分の世界には無い食べ物なので食べてみたいとのことだ。 「美味しいですか?」 今なのはの目の前には両手に花ならぬ、両手にクレープ状態のヴァッシュがいた。 ヴァッシュは端から見ても分かるほど美味しそうにクレープを頬張っている。 「うん!美味しいねぇ!」 (ヴァッシュさんって花より団子なタイプなんだろうなぁ) 歓声を上げるヴァッシュを見てなのははそう思った。 それから二人で他愛もない話をしながらクレープを食べていると(ヴァッシュさんは追加でもう二つ買った)いきなり後ろから声をかけられた。 「あ、やっぱりいた!」 声のした方に振り向くと馴染みのある二人の女の子がいた。 「アリサちゃん!すずかちゃん!どうしてここに?」 「ん、その子達は誰だい?」 二人がそれぞれ疑問の声を上げる。 「みんなでお出掛けしようと思ってなのはちゃんの家に電話したの。そしたら士郎さんにデパートにいるって言ってたから……」 「そうゆうこと!……でそのトンガリ頭の人は?」 「ト、トンガリ……」 初対面にも関わらず、遠慮知らずのアリサの言葉に怯むヴァッシュ。 「ダ、ダメだよ……アリサちゃん。初対面の人にそんなこと言っちゃ……あのスミマセンでした」 「にゃははは……」 アリサの言葉にすずかはまるで自分が言ったかのように謝る。 それを見てヴァッシュは苦笑する。 「いやいや気にしなくていいよ。え~とすずかにアリサ、だね。僕はヴァッシュ・ザ・スタンピード。よろしく」 「ふーん、ヴァッシュねー。変な名前」 「ア、アリサちゃん!」 「へ、変な名前……」 「で、なんでなのははこのヴァッシュって人と一緒に仲良くクレープ食べてるの?」 「あれ、前に言わなかったっけ?」 なのはは首を傾げる。 「あ、もしかして長期のバイトさん?」 すずかが思いだしたかのように手を叩く。 「あ~あの、『厨房にいる隠れ美男子』って噂になってる」 「そう!その美男子こそ僕、ヴァッ「でもそれ程でも無いわよね」」 「ア、アリサちゃん!」 「何よ。本当のことじゃない」 ヴァッシュ・ザ・スタンピード、撃沈。 どうやらヴァッシュとアリサは予想以上に相性が噛み合うらしく、痛烈な口撃でヴァッシュは攻め立てられていた。 「ヴァ、ヴァッシュさん!アリサちゃん言い過ぎだよ!」 頬を膨らませそう言うなのは。 「ほら、アリサちゃん謝らなくちゃ」 「わ、分かったわよ。すずかはうるさいんだから……」 「何か言った?」 「な、何でもない……」「ほら、早く謝らなくちゃ」 「う~ごめんなさい」 渋々といった感じでアリサが謝る。 「いや……全然気にしてないよ……うん」 それにしてもこのヴァッシュ、押されっぱなしである。 「にゃははは……」 そんな三人を見てなのはは苦笑する。 ――とても騒がしく楽しい時間が過ぎていった。 ■□■□ 「ノォ~~~!ギブ!ギブゥ!」 その光景を一言で言うのなら異常。 公園の片隅にある砂場に五、六人ほどの子供たちが群がり暴れまわっている。 それをなのはとすずかは見守ることしか出来ない。 いや、あまりの気迫に止めようという気もおきない。 その子供たちの中心にいるのは、ド派手な金髪の頭をした一人の男――ヴァッシュ・ザ・スタンピードだった。 「よ~し、次は卍固めいくわよ~」 「そんなハイレベルな技どこで覚えたの……ってイタイ!イタイ!ギブ!ギブ~~~!」 ――そして、そこにはヴァッシュに対し今までにない爽やかな笑顔で関節技をかけているアリサがいた。 更にそれに続くように、他の子供たちが各々に好きな技をヴァッシュにかけている。 ――何故こんな事になったのか順を追って説明していこう。 四人はデパートの帰り道公園へと立ち寄る→なぜか、そこに居た子供たちがヴァッシュに群がり始める→最初はまとまりつくだけだったが徐々にエスカレートしていき関節技祭りに突入→見かねたアリサが仲裁に入る→ミイラ取りがミイラ。 そして今にいたっている。 めくるめく展開の早さになのはもすずかも止める暇さえなく、ヴァッシュは子供たち+アリサの玩具にされているのであった。 「どうしよう?なのはちゃん」 「う~ん、飽きるまで待つしかないのかな……」 「ヘルプミ~!」 アリサたちを止めるのを早々に諦めたなのはとすずかは近くのベンチに腰を下ろす。 何か声が聞こえたが気にしない。 ――二人とも良い判断だ。 「アリサちゃんも楽しそうだね」 元気に暴れまわるアリサを見てなのはは心の底からそう思った。 「そうだね」 すずかも相づちをうちその光景を眺める。 (ヴァッシュさんも楽しそう) 所々で本気で痛そうな声を上げているが、まぁ楽しそうだ。 それを見てなのはの顔に自然と笑みが浮かんでくる。 「良かった……」 ふいに隣にいるすずかが声を上げた。 「?何が?」 すずかの言葉の意味が分からずなのはは首を傾げる。 そんななのはを見て嬉しそうに笑いながらすずかが口を開く。 「なのはちゃんが本当に楽しそうな顔してて……」 「ふぇ?そんなことないよ、いつも楽しいよ」 「うそだよ。最近のなのはちゃん、いつも何かに悩んでるような顔してたもん。アリサちゃんなんか、ずっと心配してたんだよ」 すずかは真っ直ぐになのはの目を見て話す。 「今日みんなで遊ぼうって話になったのだって、なのはちゃんに元気になって欲しかったからなんだよ」 すずかの言葉になのはは何も言えなくなってしまう。 「だから良かった!今日のなのはちゃん本当に楽しそうだもん」 微笑みながらすずかはそう言うと、アリサとヴァッシュの方に駆けていく。 (気付かれないようにしてたんだけどな……) 本当にあの二人にはかなわないな……。 ――アリサちゃん……すずかちゃん……ありがとう……。 なのはの心に浮かぶのは感謝の気持ち。 二人には心配かけてばかり。いつもこうだ。 (ダメだよね……このままじゃ……) ――なのはは決意した。 それと同時に立ち上がりみんなが暴れている方へ走り出す。 その顔にあるのは笑顔。 ――その笑顔は見ただけで人を和ませる最高の笑顔だった。 ■□■□ 「あ~体中が痛い……」 「にゃはは……」 すっかり暗くなった公園。 そこのベンチにヴァッシュとなのはの二人は座っていた。 もう時刻は六時を回ってる。 子供たちやアリサたちも帰ってしまい、ここにいるのは二人だけ。 「それにしてもアリサは凄いねぇ。将来格闘技でもやった方がいいよ。うん」 この場に本人がいたらかかと落としの一発でも飛んできそうなことをヴァッシュが言った。 「でも、ヴァッシュさんも楽しそうだったよ」 「まぁね。こういうのも久しぶりだしね」 「久しぶり……って前にもあったんですか、こういうの?」 「うん」 ヴァッシュはさも当たり前のように肯定する。 流石に、これにはなのはも呆れてしまう。 「まったくヴァッシュさんは……」 そんななのはを見てヴァッシュは嬉しそうな笑みを浮かべる。 「……いや~良かったよ」 「何がですか?」 「なのはが元気になってくれてさ」 「え?」 「自分で気づいてなかったのかい?最近よく張り詰めたような顔してたよ」 ヴァッシュは優しく語る。 (ヴァッシュさんにもバレているとは……。私ってそんなに顔に出やすいのかな?) こうしてみると悩んでいるのを必死に隠していた自分がバカみたいだ。 なのはは苦笑する。そして苦々しい笑みはどんどん本当の笑みに変わっていく。 ――心が軽くなった気がする。 「ねぇ、ヴァッシュさん」 なのははその笑みのままヴァッシュに語りかける。 「ん、なんだい?」 「この世界は楽しいですか?」 「あぁ!とっても楽しいよ!」 ヴァッシュはなのはの問いに迷うことなく答える。 なのははそんなヴァッシュを見て、決めた。 管理局にヴァッシュのことを伝えない、と。 ――せめて……せめてヴァッシュさんの傷が――ヴァッシュさんの心にある大きな傷がが治るまでは管理局に伝えなくても良いんじゃないかな……。 なのははそう思う。 ――あんな辛そうな顔で元の世界に戻ろうとするヴァッシュさんは嫌だ……。 戻る時はせめて笑いながら、元の世界に帰って欲しい……。 だから、その笑顔を取り戻せるまでは―― なのはは決意した。 ――自分の我が儘かもしれない。 でも、ヴァッシュさんがどちらの道を選ぶにせよ苦しまないで、笑いながらその道を選べるようになるまでは、なのははヴァッシュを守ろうと決意した。 お気楽な笑みを浮かべる人間台風を眺めながら、小さな魔導師はそう決心した。 前へ 目次へ 次へ
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リリカル・グレイヴ 番外編 「ツギハギと幽霊と女の子」(前編) 静寂の支配する夜闇の中、シンシンと雪が降る町を歩く奇妙な二人の男がいる。 一人はツギハギのある古ぼけたコートを着込み、両の目を塞ぐ眼帯に顔にすら傷を縫った跡がある全身ツギハギだらけで白髪の男だった。 男の名前は屍十二(かばね じゅうじ)、故あって旅をする死人兵士。 そしてもう一人の男は赤いレザーの上下にエレキギターを担いだ(厳密に言えば担いでいる訳ではないが)金髪リーゼントの陽気そうな男。 ロケット・ビリー・レッドキャデラック、エレキギターBL20000V(ブルーライトニング、トゥエンティサウザンドボルト)に憑依する愉快な幽霊だ。 ある理由によって様々な世界を旅するこの二人は偶然立ち寄ったこの町でとある少女に出会った。 それは幼き召還師、里を追われた悲運の少女キャロ・ル・ルシエである。 雪に彩られる夜の町の片隅で少女は嗚咽を漏らしながら一人寂しく泣いている。 その震える肩と、頬を伝い流れ落ちる涙の雫はどこまでも儚げで、見る者の心を揺らさずにはおかない。 そのキャロの様子に十二は苦々しい表情を浮かべる。 眼の見えぬ彼は視覚を除く様々な感覚で外界を把握している、故にキャロがどれだけ心の底から悲しんでいるかが分かるのだ。 そして十二はボリボリと乱暴に頭を掻きながらキャロに声をかけた。 「なに泣いてんだメスチビ、うるせえから静かにしてろや」 最悪に乱暴で粗雑な言葉、それでも声をかけられたキャロに彼の言葉にはどこか温かさが滲み出ているような気さえした。 十二の言葉に驚いて振り向いたキャロは唖然として十二とビリーの二人を呆けたように眺めている。 するとビリーがまるで空気を入れ替えるように、陽気に喋りだす。 「おいおいジュージ~、可愛いレディにそりゃ無いぜ?」 「うっせえ、辛気臭く泣かれてちゃあ迷惑なんだよ」 「相変わらず口が悪いなぁジュージ‥‥‥さて可愛いお嬢さん、君の瞳に涙は似合わない良かったら訳を聞かせてもらえないかい?」 ビリーはそう言うと丁寧に頭を下げてキャロの前に跪いた。 △ 「ふむふむ、なるほどねぇ~。住んでた里を追われたと‥‥それは災難だったね、まったく君みたいな可愛いレディになんて事を」 十二とビリーはひとまずキャロの暖をとる為に場所を近くの喫茶店に移し、彼女からその身の上話を聞いた。 ちなみに異様な風体の客に店員一同が不審そうな目で見ているが、そんな事を気にする十二とビリーではない。 そしてキャロは注文した温かい紅茶を飲みながらやっと泣き止んで落ち着いたが、彼女の身の上話を聞いた十二は最悪に機嫌の悪そうな顔をしていた。 「おいメスチビ、てめえの里とかいうのはどこにあんだ?」 「“メスチビ”って、酷いです‥‥‥それよりそんな事聞いてどうするんですか?」 「決まってらぁ、殴りこんでてめえを引き取らせる」 十二はそう言うと手をポキポキと鳴らして凶暴な空気を放つ。 この男は冗談抜きで実行しかねないから恐ろしい。 その様子にビリーは“やれやれ”と言って肩をすくめる。 「おいおいジュージ、お前って奴はどうしていつもそう暴力的なんだ。もう少しスマートに行けないのか?」 「うるせえぞRB、こんな小せえガキをおっぽり出す奴らなんざ軽くボコって何がワリいんだよ」 宥めようとするビリーに向かって十二は怒りを剥き出しにして吼える。 十二とビリーのこのやりとりに、事の発端であるキャロは慌てて割って入った。 「あ、あのっ! 別に良いんです。私のせいで‥‥里のみんなに迷惑は掛けたくないですから‥」 「でも良いのかい? これから一人で生きていくなんて」 「はい‥‥みんなに迷惑をかけるくらいなら‥‥」 十二に向かって説得するキャロだが、言葉尻の語気は弱弱しい。 ある日突然、寒空の中に一人故郷を追われた孤独だろう、キャロの瞳はうっすらと涙で濡れて肩は小刻みに震えている。 それでも自分の故郷に迷惑をかけるくらいならば、一人孤独に耐える道を行こうと言うのだ。 十二は苦虫を噛み潰したかの如く、実に機嫌の悪そうな顔をして席を立つ。 「おい行くぞRB」 「っておい、ジュージ~」 止めようとするビリーに目もくれず十二はズカズカと店の外の出て行く。 キャロはまた一人になる寂しさに泣きそうな顔になる。 だが十二は一旦立ち止まるとキャロに向かって声をかけた。 「何やってんだメスチビ、早く来ねえと置いてくぞっ!!」 「えっ!? あ、あの‥‥それってどういう‥」 「お前どうせ行くアテなんか無えんだろうが。なら俺らと一緒に来やがれって言ってんだよっ!」 「でも‥‥そんな、屍さん達に迷惑かけちゃ‥」 「チビがいっちょ前にゴタク言ってんじゃねえぞゴラァ! さっさと来いボケナスが!!」 十二はキャロの頭を軽く小突くと、手を引っ張っていった。 素直になれない十二の親切さにビリーは思わず苦笑する。 こうして、ツギハギだらけの死人とエレキギターに憑いた幽霊そして竜召還師の女の子という奇妙な一団の旅が始まった。 続く。 目次へ 次へ
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Round ZERO ~ JOKER DISTRESSED(後編) ◆HlLdWe.oBM 「インテグラ卿!!!」 ギンガの叫びが幾重にも重なった深い煙の中に虚しく響く。 どういう原理か知らないが校庭周辺に漂っている煙の量は半端ではない。 ガジェットに施されたランブルデトネイターによる爆発によって発生した爆煙。 広い校庭の細かな砂が爆発によって舞い上がった事で発生した土煙。 さらにガジェットが爆発した付近には体育倉庫があり、その中にはどこにでもあるようなラインパウダーが保管されていた。 それがガジェットの爆発に巻き込まれて周囲に拡散する始末となった。 つまり現在校庭付近に限定するなら3重もの煙幕が展開されて視界はほとんど防がれている状態。 この異常事態の確かな原因をギンガは知らないが、最悪の状況である事は確かだ。 インテグラはもちろん、膠着状態だった弁慶・カリス・ギンガ・ギラファの4人も爆発の影響で離れ離れになってしまった。 つまり現状誰がどこにいるのかさっぱり分からない状態なのだ。 「インテグ――ッ!」 ギンガはあらん限りの声を上げてインテグラを呼び掛けていたのだが、そこで唐突にある可能性に気付いた。 この状態では目に頼った捜索は困難を極める。 では目に頼らなければどうするか。 答えは耳。 周囲の音から物事を判断する事が自然と重要になってくる。 そしてそんな中で声を上げるという事は自分の居場所を相手に教えるという事に他ならない。 この場所にいる者がインテグラだけなら大して問題ではないが、実際は違う。 ここには始と戦っていたアンデッドと僧侶姿の大男がいた。 そんな危険人物のいる中で自らの居場所を教えるなど少々浅はかである。 (危なかった。あのままだったら、あとでインテグラ卿に怒られてい――) そこでギンガの思考は途切れた。 深く立ち込めた灰色と白色が入り混じった煙の向こうに二つの人影を見つけたのだ。 一つは地面に伏していて、もう一つはその脇に立っている。 それを見た瞬間、ギンガは再び嫌な予感がした。 心の内にチラつく不安に後押しされてギンガは碌な確認もしないまま既に足をそちらに向けて知らず知らずの内に走っていた。 全力で走ってすぐさま現場に着くと、そこにいるのが誰なのか分かった。 地面に伏しているのはインテグラ、立っているのは金色の怪人――ギラファアンデッド。 そして地面にうつ伏せの状態で倒れているインテグラの背中には紅い槍が刺さっていた。 「貴様ァァァ!!!」 限りなく即死に近い状態だった。 槍が刺さっている場所は心臓付近。 そこを穿たれて平気な人間などいない。 しかもインテグラは数時間前に全身火傷を負って体力が消耗している さらに手元に碌な治療用具がない以上適切な処置など不可能。 つまりインテグラの死は確定的だった。 「……見られたか、ならば!」 当の下手人であるギラファはギンガの姿を認めると、静かな殺気と共に襲いかかって来た。 ギラファが殺し合いに乗っている事は火を見るよりも明らかである。 そんな危険な者を、インテグラを殺した怪人を、ギンガはこのまま野放しにする気など毛頭なかった。 ギンガは悲しみを心の底に追いやり、猛然とギラファに向かっていった。 「ハ――ッ!!」 「――ッ!!」 幼い頃よりこの身に刻んできたシューティングアーツの技を惜しみなく繰り出していく。 その一手一手にはカード内に蓄積されていた魔力を順次開放させて上乗せしている。 本調子とまではいかなくても威力は申し分ないはず。 だが届かない。 拳も、蹴りも、魔法も、全て。 ナックルバンカー――魔力付与によって強化した拳は右手の剣で払われた。 ストームトゥース――防御破壊と直接打撃の左拳二連撃は最初の一撃を躱されて膝蹴りを喰らわされた。 リボルバーシュート――猛烈な衝撃波と共に放たれた魔力の弾丸はバリアによって阻まれた。 お互いの声が漏れるたびに拳と剣が交錯する。 戦況はギンガに圧倒的に不利な状態だ。 数手交わしただけでそれが嫌というほど分かった。 おそらく目の前の相手の力は殺生丸や金髪の男と同等だ。 しかもこちらにはデバイスがなく、魔導師としてそれは戦力の低下を意味している。 今までの数手で自分は持てる技を最大限に駆使したが、全く攻撃が届く気配がない。 まだ奥の手のリボルバーギムレットがあるが、あれはナックルスピナーがない状態では回転させる動作制御が不十分になる。 おそらく威力不足でバリアに阻まれて相手に届く事すら叶わないだろう。 いくらカードで魔力を付与してもデバイスがない以上リボルバーギムレットを出すのは難しい。 (ギムレットが無理なら、もう一つの方に賭けるしかな――って、迷う暇なんてないわね。もう今しかチャンスはない!) 今までの攻防でアンデッドはこちらの力量を掴んできたはず。 それはすなわち己との圧倒的な力の差。 そこには僅かだが余裕という名の隙ができる。 だが奥の手を使えばその差を覆せる可能性はある。 逆転の一手を仕掛けるなら今しかない。 決意すると後は行動するだけ。 ギンガは少し溜めを作り、一気に走りだした。 もちろん向かう先は金色の怪人ギラファアンデッド。 「これで終わりにしようか」 必死なギンガとは対照的にギラファは悠然と構えて言葉を放った。 ここまでの戦闘で彼我の差が明らかである以上それも当然だ。 だがそこに僅かながら隙がある。 そしてそれはギンガが狙っていた事。 徐々に距離を詰めていき後数歩という所で―― 「な!?」 ――ギラファの目の前に光の道が出現した。 今まで見せなかったギンガの先天固有魔法・ウイングロード。 突然目の前に紫の光の道ができた事でさすがのギラファも驚愕を隠せないでいた。 だから一拍遅れて迫ったギンガへの反応が遅れる事になった。 (……私は今まで何もできなかった) 最初は空港火災の時、二度目は地上本部の時。 どちらも自分の責任を貫き通す事が出来なかった。 ここに来てからも同じようなものだ。 最初は殺生丸さん、次に矢車さんとキャロ、そして今度はインテグラ卿。 だからせめて目の前の相手だけは倒す。 ここで放っておけば必ず皆に刃を向ける怪人を。 自分は今度こそ責任を貫かなければいけない。 だからここにいる人を、そしてスバルを―― (――私が守るって、決めたんだ!!! だからフェイトさん、殺生丸さん、あなた達の力、貸して下さい!!!) 刹那デイパックより一振りの傷だらけの刀が抜き出された。 その刀の名は殺生丸の形見となった童子切丸。 それを左手に持たせたままその手を腰だめにして構え、逆に右手は前に突き出す。 カードを全て使って魔力の補充は万全。 あとは撃ち出すのみ。 「プラズマアアァァァァァァァァスマッシャアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァ――――――――ッ!!!」 至近距離から放たれた魔法は憧れの対象である恩人の技。 オリジナルのような電撃は付与できないが、全カードを使って補充した魔力で威力は十分だ。 ギンガの決意を秘めた左腕が限界まで込められた魔力と共に突き出される。 (この距離ならバリアも――) (――甘いな!!) ウイングロードで作り出した僅かな隙。 だが後一歩及ばず。 目の前にはあの全てを阻む透明の壁が。 それでもギンガは信じている。 煌めく銀河の雷光が必ずや敵を貫くと。 ここで二人が知らない事実がある。 それは童子切丸の特性である「人間の生き血を捧げれば、あらゆる防御術式を貫く事ができる」というもの。 もちろんギラファアンデッドも、ただ形見として拾っただけのギンガも、この特性を知る由もない。 今回ギンガがこの剣を取り出したのは殺生丸の力にあやかりたいという部分が大きい。 だがここで偶然にも奇跡的な事が起こった。 ここまでの戦闘でギンガは身体のあちこちに傷を負っていて、当然そこから血が流れ出ていた。 それが腕を伝って童子切丸に行き着いていたのだ。 正式な形はともかく童子切丸に「人間の生き血」が僅かばかりでも捧げられた事に変わりはない。 それによって妖刀童子切丸はその「あらゆる防御術式を貫く事ができる」という特性を発動させる事ができた。 当然ギラファのバリアも「あるゆる防御術式」にカテゴリ―されるものであり、童子切丸によって貫かれる事は明らかだ。 もちろんそんな事は知らないギラファはここでバリアを展開して攻撃を防いでから反撃に転ずるつもりだ。 しかしギンガの左拳にはその童子切丸が切っ先をギラファに向けた状態で握られている。 この瞬間バリアは無意味となった。 こうして二人の知らない事実の下で童子切丸は計り知れない力の奔流と共に生身の身体に叩きつけられた。 肉と骨を断った剣は役目を終えたかのように根元から折れて眠りに就いた。 限界まで高められた魔力の激流は出口を与えられた瞬間、目の前の敵に叩きつけられた。 そして全てが終わった。 ▼ ▼ ▼ 俺はもう誰も失いたくなかった。 だがこの傷でじゃ遅かれ早かれ死ぬだろう。 少し無茶をしたせいか、血を流し過ぎたかもしれない。 だから最期に俺はこの身を差し出してやる。 ……和尚……寺のみんな……竜馬……隼人……そしてティアナ。 もう誰かが死ぬのは御免だ。 確かにお前は少し胡散臭いところもある。 だがお前のおかげで俺達はあの時無駄に対立する事を防げた。 お前が悪人ならあの時俺達が勝手に仲違して自滅する様を見ていれば良かったはずだ。 だから俺はお前を信じるぜ。 だから……あばよ、金居…… ▼ ▼ ▼ ギンガは目の前の出来事が信じられなかった。 「え……あぁ……そ、そんな……」 ギンガのプラズマスマッシャーは確かに目の前の男に刃を突き立て魔力の奔流をその身にぶつけた。 もちろん童子切丸による出血とプラズマスマッシャーによる衝撃で既に息はない。 だがギンガの顔は青ざめていた。 なぜならギンガと戦っていたギラファはその男の背後に未だ無事な状態でいるからだ。 ギンガのプラズマスマッシャーを金居から庇った男は武蔵坊弁慶。 弁慶はあの爆発に巻き込まれて地面を転がり出血多量もあって気を失っていた。 そして気絶から回復した弁慶の目に飛び込んできたものは襲われているギラファアンデッド、金居の姿だった。 それを見た時もうこの傷ではそう長くないと悟っていた弁慶は自らの身を挺して金居の身代りになる事を選んだのだ。 しかも驚く事に弁慶は童子切丸でその身を貫かれプラズマスマッシャーでその身を焼かれてその命が尽きても倒れる事はしなかった。 まさに伝説で伝え聞く『弁慶の立ち往生』のようであった。 そんな悲劇としか言いようのない結末を目の当たりにしてギンガはただ呆然としていた。 「弁慶君、感謝するよ」 「……ガァッ――ッ!?」 そしてその隙をギラファアンデッドが逃すはずがなかった。 己のした『あやまち』に心ここに在らずの状態にあったギンガの身体にはインテグラと同様に紅い槍が突き刺さっていた。 しかし咄嗟に身体を捻ったおかげで槍が貫いた部分は左腹。 致命傷のインテグラとは違って適切な処置を施せばまだ助かる傷ではある。 「――え? そ、そんな……ぁ……」 だがギンガの身体は限界だった。 自らが犯した『あやまち』と命を奪う一撃。 その二つの衝撃で若い身体はボロボロになっていた。 もう立つ事すら覚束なくなり、すぐに重力に引かれて身体は支えを失って倒れた。 ギラファに握られたままの槍はそのまま身体から離れ、左の腹に紅い穴を形作っていた。 その穴から紅い生き血が止めどなく流れ出ている事にギンガは気付いたが、もうどうする事も出来なかった。 (私は、ここで……なにも、なにもできないまま……死ぬの……?) 少しの間を置いて地面に叩きつけられたギンガの身体が再び動く事はなかった。 ▼ ▼ ▼ 校庭を外界と遮っているコンクリート製の灰色の壁。 その内側に凭れかかった状態で相川始はいた。 その姿はハートのA「チェンジマンティス」の力を宿したカリスの姿ではない。 ハートの2「スピリット」の姿を宿した相川始のものだった。 あの爆発の衝撃でカリスの変身が解けたのが原因だった。 しかもその際に壁にぶつかった衝撃で今まで気を失っていたのだ。 とりあえず一緒に吹き飛ばされたらしいパーフェクトゼクターをデイパックに仕舞いつつ始は今の状況を確認していた。 (俺はどれくらい気を失っていたんだ? カテゴリーキングは? 弁慶は? そして、ギンガ……) ふと思い出すのは先程の一件。 ギラファの斬撃から自分を守ってくれた少女ギンガ・ナカジマ。 ギンガは自分の正体を知った後でも変わらぬ態度で説得しようとした。 そして危険を顧みず自分の命を助けるために戦いの渦中に飛び込んできた。 そこまで自分に関わってくる理由は己の胸に引っ掛かっているあの言葉に関係あると容易に想像がつく。 だが今の自分はそれに応える事はできなかった。 (人間、か。だが俺は……アンデッド……人間な――! なんだ! この気配は!?) その事が胸に引っ掛かりつつもカリスはまだ痛む身体を起こした。 未だ視界が定まらぬ煙の向こうから感じる禍々しい気配。 それが始に悠長に休息を取っている場合ではないと警告していた。 だが自分の感覚を信じるならばそこにいるのはアンデッドではない。 だがそれ以上の何かを感じさせる者がいる事は確かだった。 周囲一帯に立ち込める煙でほとんど何も見えないが、そんなものを感じさせない程にその存在は異常だった。 不意に一陣の風が校庭に吹いた。 それにより立ち込める煙は一掃されていき、三重の煙幕は徐々に晴れていった。 そしてカリスは見た。 紅い血で真っ赤に染まった地面に倒れ伏すギンガと、その脇に立っている赤いコートの男を。 「……貴様が殺ったのか」 「そうだと言ったら、どうする?」 その言葉を聞いた瞬間、相川始の中で何かが弾けた。 不意に頭の中が真っ白になり、何も考えられなくなるほどに身体の奥底から何かが沸々と湧き上がってきた。 それは言葉に出来ないほどの暗い衝動。 それが自分の本来あるべき姿を呼び覚まそうとしていた。 それは長らく封印してきた自分の真の姿。 それになるという事は真の意味で化け物になる事だ。 だが。 それでも。 湧き上がる衝動は抑えがたく。 ついに。 「――――――――――ァァアアアア――――――――――ッッッ!!!!!」 その暗い衝動に身を委ねた。 次の瞬間、そこに相川始はいなかった。 そこにいる者は『相川始』に非ず、彼の者の名――それは『ジョーカー』。 ▼ ▼ ▼ アーカードの目の前には一つの死体があった。 見慣れた服装、見慣れた髪、そして確認するまでもなく見慣れた顔。 それは紛れもなくアーカードの主インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシングに相違なかった。 アーカードがここに来た理由はガジェットの爆発に気付いたからだ。 その爆発音が市街地を捜索していたアーカードまで届き、戦闘の気配を感じるままに赴いた次第だ。 そして一度は去った学校に再び戻った時、アーカードは主インテグラの気配を感じ取っていた。 先程死にかけの女を抱えて去って行った黒い化物を放っておいたのも近くで主の気配を感じたからだ。 それなのに当の主はアーカードを見るなり悠然と命令を与え終わると、それが最期の力かのように静かに逝ってしまった。 「それがお前の最後の命令(ラストオーダー)か、我が主インテグラ」 ――見敵必殺(サーチアンドデストロイ)だ! 我々の邪魔をするあらゆる勢力は叩いて潰せ! そして、あのプレシアを…… その最期の言葉がヘルシング機関の鬼札<ジョーカー>の胸にいつまでも木霊していた。 【1日目 昼】 【現在地 D-4 学校の校庭】 【アーカード@NANOSING】 【状況】疲労(小)、昂ぶり、セフィロスへの対抗心 【装備】パニッシャー(砲弾残弾70%/ロケットランチャー残弾60%)@リリカルニコラス 【道具】支給品一式、拡声器@現実、首輪(アグモン)、ヘルメスドライブの説明書 【思考】 基本:??? 1.主の命令(オーダー)は見敵必殺(サーチアンドデストロイ)か。 【備考】 ※スバルやヴィータが自分の知る二人とは別人である事に気付きました。 ※パニッシャーは憑神刀(マハ)を持ったセフィロスのような相当な強者にしか使用するつもりはありません。 ※第1回放送を聞き逃しました。 ※ヘルメスドライブに関する情報を把握しました。 ※セフィロスを自分とほぼ同列の化物と認識しました。 ※はやて(A s)が死亡した事に気付きました。 ※インテグラの死体(背中に朱羅の片方@魔法少女リリカルBASARAStS ~その地に降り立つは戦国の鉄の城~が刺さった状態)の傍にデイパック(支給品一式)が落ちています。 ▼ ▼ ▼ 相川始は図書館にいた。 なぜ学校にいた始がエリアを隔てた図書館にいるのか。 それはジョーカーの姿に戻って学校から移動したからだ。 だが本来ならジョーカーとして覚醒すれば赤いコートの男に襲いかかったはず。 しかしジョーカーとなった始は戦わなかった。 「……ぅ……!」 読書用に設置されたソファーの上から微かな声が聞こえてくる。 そこには全身血まみれの少女が寝かされていた。 青紫のショートヘアも、茶色の陸士制服も、その身体を沈ませているソファーも自らの血で汚しつつもまだ少女は生きていた。 ギンガ・ナカジマ。 あの時ギンガがまだ生きていると気づいたから始はジョーカーでありつつも逃走を選んだ。 まだギンガを助ける事ができると信じて。 それは先程ギラファから助けてもらった借りを返そうとしたからかもしれない。 だが実のところはそのようなものがなくとも助けようとしたのかもしれない。 本当のところは始にも分かっていない。 「……始、さん」 ようやく気が付いたギンガの声は明らかに弱々しくなっていた。 当然だ。 左腹からの出血はもう手の施しようのないレベルに達していた。 応急措置をしようにもとっくに手遅れの状態だった。 もうギンガが助かる可能性はなかった。 そのギンガは最後の力を振り絞って何かを言おうとしていた。 始はそれを黙って聞いてやる事にした。 「は、始さん……」 「…………」 「わ、私のデイパックの、中の……録音機を、アーカードという人に……渡して……」 「…………………」 「お、お願い……し……」 「……ああ、分かったよ」 なぜか肯定の返事を返していた。 表情には出さなかったが、そんな事をしている自分に驚いていた。 だが不思議と断ろうという気持ちにはなれなかった。 そして始の承諾を得たギンガの顔は安らかなものだった。 「ありがとう……ござ、います。あと……なのはさんと、フェイトさん……はやて部隊長、それにスバルと……キャロに会ったら――」 「…………………………………」 その言葉の続きがギンガから話される事はなかった。 ▼ ▼ ▼ いつのまにか私は始さんに背負われて、そして寝かされていた。 その時はっきりと相川始は人間だと確信できた。 誰かを助けようとする人が化け物であるはずがないと思ったから。 だから安心して録音機の事を頼めた。 あの中にはここへ来る途中でインテグラ卿がアーカードに対してメッセージを入れていた。 本来はインテグラ卿不在時にアーカードの遭遇した時の備えだったが、こんな事になるとは思っていなかった。 あと出来る事なら仲間の事も話しておきたかったが、どうやら時間切れのようだ。 もう既に意識が遠のき始めていた。 ああ、スバル。また守ってあげられなくてごめんね。 そして。 殺生丸さん、私は―― ▼ ▼ ▼ 紅に彩られたソファーに寝かせられたギンガはまるで安心しきったかのように眠っていた。 だがその眠りは永遠である。 もうギンガが目覚める事はない。 それを理解した時、始は胸に言葉に出来ない何かを感じていた。 それが何なのかなぜそのように思うのか自分でもよく分からない。 「何を考えているんだ、俺は……」 その不可解な感情がジョーカーの心を大きく揺さぶっていた。 【1日目 昼】 【現在地 E-4 図書館のロビー】 【相川始@魔法少女リリカルなのは マスカレード】 【状況】疲労(中)、全身に軽い切傷、左腕に強い痺れ、背中がギンガの血で濡れている、言葉に出来ない感情、カリスとジョーカーに1時間変身不可 【装備】ラウズカード(ハートのA~10)@魔法少女リリカルなのは マスカレード 【道具】支給品一式×2、パーフェクトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、ゼクトバックル(ホッパー)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、録音機@なのは×終わクロ 【思考】 基本:栗原親子の元へ戻るために優勝を目指す。 1.とりあえず身体を休める。 2.見つけた参加者は全員殺す(アンデットもしくはそれと思しき者は優先的に殺す)。 3.アーカードに録音機を渡す? 4.あるのならハートのJ、Q、Kが欲しい。 5.ギンガの言っていた人物(なのは、フェイト、はやて、スバル、キャロ)が少し気になる。 【備考】 ※自身にかけられた制限にある程度気づきました。 ※首輪を外す事は不可能だと考えています。 ※「他のアンデットが封印されると、自分はバトルファイト勝者となるのではないか」という推論を立てました。 ※相川始本人の特殊能力により、アンデットが怪人体で戦闘した場合、その位置をおおよそ察知できます。 ※エネルという異質な参加者の存在から、このバトルファイトに少しだけ疑念を抱き始めました。 ※ギンガを殺したのは赤いコートの男(=アーカード)だと思っています。 ※カリスの方が先に変身制限は解除されます。 ▼ ▼ ▼ 学校で、図書館で、二人のジョーカーが想いを馳せている時、金居は一人東に向かっていた。 目的地は当初の予定通りB-8にある工場だ。 (いくつか誤算はあったが、まずまずの結果だ) 金居は今までの経緯を振り返っていた。 まずはジョーカー――カリスとの戦闘。 この時金居は本気で戦う事はしなかった。 だが一応それなりに戦っていたので精々ジョーカーが違和感を覚えた程度だろう。 このような事をしたのは当初の予定通り弁慶と潰し合わせて漁夫の利でカリスを仕留めようと考えていたからだ。 だからカリスの消耗を待って一気に片付ける気でいた。 あの作戦が破綻した時は少し予定が狂いかけたが、弁慶の捨て身の行動で絶好の機会に転じる事ができた。 ジョーカーの注意を逸らそうと雄叫びまで上げた事が功を奏したのかは知らない。 だがその機会は突然乱入してきたギンガ・ナカジマによって阻まれてしまった。 ここでしばらく膠着状態に陥った時はさすがに本気を出してギンガ諸共カリスを倒す事を優先しようかと考えた。 転機はその直後に起こった爆発だ。 爆発の理由は不明だが、その直前に到着した新たな人物。 その女性はギンガから「インテグラ」と呼ばれていた。 この地でそれに該当する者は「インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング」に他ならない。 そしてインテグラはペンウッド曰く、アーカードの抑えられる唯一の存在らしい。 つまりインテグラを殺せばアーカードを止める者はいなくなり、結果デスゲームの進行に貢献する事に繋がる。 それは金居の望むところだった。 爆発の衝撃はバリアで防いだので即座に行動を再開する事ができた。 そしてすぐにあの煙の中で幸運にもまだ爆発の衝撃から回復していないインテグラを発見できた。 目的は一瞬で終わった。 一気に背後より近付き左手のスケルターで背部を強打。 こちらの姿を見ないまま倒れたところに落とした槍で心臓付近を一突き。 実に呆気ない最期だった。 凶器に槍を選んだのはもしものための保険だ。 ヘルターやスケルターではなく誰でも扱える槍なら下手人が判明する可能性は低くなる。 ついでにインテグラが所持していた銃器を拾えた事は幸運だった。 一番の誤算はその現場をギンガに見られた事だ。 煙で視界が悪いのですぐに済ませれば問題ないと思っていたが、ここは運が悪かった。 だが直後の戦闘でインテグラ同様に槍を刺して殺せたので大した問題にはならなかった。 少し意外だったのは弁慶が身を挺して守ってくれた事だ。 あそこまで仲間想いの奴だとは思っていなかったから少し驚いていた。 だがあそこで弁慶が庇ってくれなければ面倒な事になっていた可能性が高い以上弁慶には素直に礼を言っておいた。 そして直後に得体の知れない禍々しい気配が近づいてきたのを感じたので、その場は弁慶のデイパックだけ回収して立ち去った次第だ。 もし仮に誰かに見られたら不味い場面なのは確実だったので長居はしなかった。 心残りはジョーカーを仕留める事ができなかった事だが、あの様子ではすぐに動く事は難しいだろう。 もし運が良ければあの禍々しい気配と一戦構えてくれればと思うが、そう上手くいかないだろう。 「これが支給されたのは幸いだったな。このおかげですぐに動けるようになった」 金居の手には小さな袋が握られていた。 その中に入っている物こそ金居がこうして戦闘直後にも関わらず不自由なく行動出来ている理由だ。 この袋の中にある物は「いにしえの秘薬」と言って、服用すればどのような傷でも完全に癒し体力も回復してくれる万能薬だ。 これのおかげで本来なら幾らかの負傷と変身後の疲労ですぐには動けない金居が不自由なく動けるのだ。 全体的に今回は上手く立ち回る事ができた。 基本的に戦闘は避けていく方針だったが、止むを得ない時は仕方ない。 ジョーカーとの決着は避けては通れないから。 (とりあえず弁慶君は……ジョーカーに殺された事にしておこう。あながち嘘ではないからな) ふと時計を確認すると次の放送までもう少しというところだった。 これからの具体的な行動方針は放送を聞いてからでも遅くはない。 そう考えを出した金居は落ち着いて放送を聞くために近くのビルに入る事にした。 クワガタムシの始祖たる不死の王の大顎はまだ牙を剥き始めたばかりだ。 【一日目 昼】 【現在地 D-5 西大通り沿いのビル】 【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード】 【状態】健康、ギラファアンデッドに1時間変身不可 【装備】なし 【道具】支給品一式×2、トランプ@なの魂、いにしえの秘薬(残り7割)@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、砂糖1kg×9、カードデッキの複製(タイガ)@仮面ライダーリリカル龍騎、USBメモリ@オリジナル、S W M500(5/5)@ゲッターロボ昴、コルト・ガバメント(6/7)@魔法少女リリカルなのは 闇の王女、ランダム支給品0~1 【思考】 基本:プレシアの殺害。 1.プレシアとの接触を試みる(その際に交渉して協力を申し出る。そして隙を作る)。 2.基本的に集団内に潜んで参加者を利用or攪乱する、強力な参加者には集団をぶつけて消耗を図る(状況次第では自らも戦う)。 3.利用できるものは全て利用する。邪魔をする者には容赦しない。 4.工場に向かい、首輪を解除する手がかりを探す振りをする。 5.もしもラウズカード(スペードの10)か、時間停止に対抗出来る何らかの手段を手に入れた場合は容赦なくキングを殺す。 6.USBメモリの中身を確認したい(パソコンのある施設を探す)。 【備考】 ※このデスゲームにおいてアンデッドの死亡=カードへの封印だと思っています。 ※最終的な目的はアンデッド同士の戦いでの優勝なので、ジョーカーもキングも封印したいと思っています。 ※カードデッキ(龍騎)の説明書をだいたい暗記しました。 ▼ ▼ ▼ アンジール・ヒューレーは倒れていた。 目の前でチンクを失った事。 それが想像以上にアンジールを苛み、精神的に負担になっていた。 当初はクアットロを探そうと荷物をまとめようとしていたが、チンクの眼帯を見た瞬間何も考えられなくなった。 ディエチとは違ってチンクはすぐ傍にいた。 それなのに守る事ができなかった。 誰もいない大通り上でアンジールはいつまでも己のあやまちを責め続けた。 そして気づけばアンジールはチンクの眼帯を握ったまま当てもなく歩きだしていた。 だがそんな状態がいつまでも続くはずがなく、程なくしてアンジールは己を苛んだまま地面に倒れてしまった。 そして予想以上に精神的に堪えていたアンジールはそのまま意識を手放した。 だからアンジールは気付く事が出来なかった。 荷物をまとめる際にガジェットがどこかへ行ってしまった事を。 そしてそのガジェットが3人の参加者の命を奪う手助けをした事を。 その中にアンジールと同じように誰かを守ろうと必死になっていた者がいた事を。 全て知らないまま2回目の放送の時刻が近付いていた。 【1日目 昼】 【現在地 G-6】 【アンジール・ヒューレー@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】 【状態】疲労(中)、全身にダメージ(小)、セフィロスへの殺意、深い悲しみと罪悪感、睡眠中 【装備】バスターソード@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、アイボリー(6/10)@Devil never strikers、チンクの眼帯 【道具】支給品一式×2、レイジングハート・エクセリオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、グラーフアイゼン@魔法少女リリカルなのはStrikerS 【思考】 基本:クアットロを守る。 1.チンク…… 2.クアットロ以外の全てを殺す。特にセフィロスは最優先。 3.ヴァッシュ、アンデルセンには必ず借りを返す。 4.いざという時は協力するしかないのか……? 【備考】 ※ナンバーズが違う世界から来ているとは思っていません。もし態度に不審な点があればプレシアによる記憶操作だと思っています。 ※制限に気が付きました。 ※ヴァッシュ達に騙されたと思っています。 ※チンクが死んだと思っています。 ※ガジェットが無くなった事に気付いていません。 【武蔵坊弁慶@ゲッターロボ昴 死亡確認】 【ギンガ・ナカジマ@魔法妖怪リリカル殺生丸 死亡確認】 【インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング@NANOSING 死亡確認】 【全体の備考】 ※以下の物がD-4の学校の校庭に放置されています。 弁慶の死体(腹に童子切丸@ゲッターロボ昴の刀身が突き刺さり全身焼け焦げた状態、仁王立ち)、童子切丸の柄@ゲッターロボ昴、朱羅の片方@魔法少女リリカルBASARAStS ~その地に降り立つは戦国の鉄の城~ 閻魔刀@魔法少女リリカルなのはStirkers May Cry、パイロットスーツ(真っ二つにされた状態)@ゲッターロボ昴 ※カード×48@魔法少女リリカルなのはA’sはギンガが全て消費しました。 ※ガジェットドローン@魔法少女リリカルなのはStrikerSがD-4の学校まで移動して爆発しました。その際深い煙が発生しました。 ※G-6の大通りにはバニースーツのうさぎ耳、炭化したチンクの右腕が落ちています。 【カード@魔法少女リリカルなのはA’s】 デバイス内での炸裂を必要としない簡易型のカートリッジシステムのような働きをする使い捨ての魔力蓄積装置。 仮面の戦士(リーゼ姉妹)が魔力行使の際に使っていた。普段は左太腿のカードホルダーに収納されている。 【録音機@なのは×終わクロ】 記録用のメモリ式携帯録音機(バッテリー式)。本来の持ち主は佐山御言。 Back Round ZERO ~ JOKER DISTRESSED(前編) 時系列順で読む Next 過去 から の 刺客(前編) 投下順で読む Next 過去 から の 刺客(前編) アーカード Next しにがみのエレジー。~名もなき哀のうた~ インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング GAME OVER ギンガ・ナカジマ GAME OVER 相川始 Next The people with no name 金居 Next MISSING KING 武蔵坊弁慶 GAME OVER アンジール・ヒューレー Next 過去 から の 刺客(前編)
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後に闇の書事件と呼ばれる事件が起きてから、しばらく経ったころ、 「はやてちゃんが意識不明!?」 病院からの電話に、シャマルは呆然となる。金髪を肩のあたりで切りそろえた二十歳くらいの女性だ。受話器を落とさなかったのは僥倖だろう。シャマルはどうにか受話器を置くと、その場に崩れ落ちる。 居間にいて声が聞こえたヴィータ、シグナム、ザフィーラも顔色を変える。 「おい、はやてが一体どうしたんだ?」 「突然、病院で昏睡状態に陥って、原因不明だって・・・・・・」 「魔力の不足か」 シグナムが唇を噛み締める。年はシャマルと同じくらい。髪をポニーテールにした凛々しい雰囲気の女性だ。 手にしたものの願いを叶える闇の書。しかし、莫大な魔力を必要とする闇の書は、魔力の収集を行わなかった彼らの主、八神はやてを確実に蝕んでいる。 進行を抑えるべく、シグナムたちは連日、異界に飛んで魔力を収集しているが、はやての容態は悪化する一方だ。このままでは命にかかわる。 「やっぱり、こんなちんたらしたやり方じゃ、間に合わねぇよ!」 ヴィータが苛立ちまぎれに机を叩く。長い髪を二つの三つ編みにして垂らしている、きつい目つきの少女だ。年は六、七歳か。 はやてが悲しまないように、ヴィータたちは相手の命を奪わず、魔力の元、リンカーコアのみを奪取する方法を取ってきた。しかし、その方法も限界に来ていた。 「落ち着け、ヴィータ。主が悲しまないよう最善を尽くす。それが我らの誓いではないか」 床に伏せていた蒼い狼、ザフィーラがヴィータを諭す。 「でも、このままじゃ、はやてが・・・・・・」 「手がないわけじゃないわ」 シャマルが静かに言った。 「どういうことだ? 詳しく聞かせろ」 「この前、時空のはるか彼方に、膨大な魔力反応を感じた。もし、その魔力を手に入れられれば、はやてちゃんを助けられるかもしれない」 「何だよ。そんな方法があるなら早く言えよ」 ヴィータは胸を撫で下ろした。しかし、シャマルの顔は険しいままだ。 「どうした?」 シグナムが促すと、シャマルは重々しく口を開いた。 「簡単に行ける場所じゃない。たぶん往復だけで丸一日かかる。まして、その先にいるのはこれまで観測したこともない魔力の持ち主。全員でなければ、絶対に負ける。いいえ、全員で行っても勝てるかどうか・・・・・・」 先日襲撃した時空管理局の少女たちも、相当な魔力の持ち主だったが、今回はさらに桁が違う。まるで神か悪魔の居場所でも突き止めたかのようだ。 「相手が誰であろうと関係ない」 シグナムが剣型デバイス、レヴァンティンを取り出す。 「主を救えるなら、たとえ神だろうと悪魔だろうと倒してみせる」 全員が力強く頷く。彼らの心に迷いはない。 彼らの名はヴォルケンリッター。闇の書の守護騎士たちだ。 魔力で作られた道具でしかなかった彼らに、人の心と温もりを教えてくれた八神はやて。彼女を救えるなら、どんな罰だって甘んじて受ける。 「決まりだな」 「こうなると、はやてちゃんが昏睡状態なのは不幸中の幸いかもね」 「ああ、余計な心配をかけずにすむ」 「ならば、一刻も早く出発しよう。そして、一刻も早く戻らねば」 ザフィーラが立ち上がった。その姿が、狼の耳と尻尾を生やした浅黒い肌をした男に変わる。 万が一、目を覚ました時のために、石田医師に伝言を頼む。石田医師からは、こんな時にはやての傍からいなくなるなんてと文句を言われたが、仕事の都合でどうしようもないと押し切った。 「では、行くぞ!」 シグナムの号令の元、騎士服に着替えたヴィータ、シャマル、ザフィーラが転移を始める。 その頃、時空監理局所属アースラ艦内では、 「敵が移動を開始した?」 「はい。座標xに向けて移動中です」 「かなりの距離ね」 「もしかしたら、そこに闇の書があるのでは?」 黒衣の少年、クロノが母親であるリンディ艦長に向けて言う。 「その可能性は高いわね。収集した魔力を主の元に届けるつもりかも。そうなると、なのはさんやフェイトの協力は不可欠ね」 アースラは、なのはたちのいる時空に進路を取った。 ヴィータたちが降り立ったのは、月光が降り注ぐ広い草原だった。 ただし、その場所には無数の化け物が巣食っていた。 「おい!」 狒々(ひひ)や牛、草原を埋め尽くす化け物の群れに、ヴィータが思わず声を上げる。 化け物すべてが桁違いの魔力を放出している。たやすく倒せる相手ではない。 「ほう。面白い獲物がかかったものだ」 化け物たちの中心にいる巨大な牛が渋い重低音で言う。魔力の量から、そいつが親玉なのだろう。 牛が吠えると、その姿が変化していく。牛の角はそのままに、体は虎に、背からは巨大な翼が生えてくる。 「おお、窮奇様が……」 「真の姿を現された」 化け物たちがどよめく。 しかし、シグナムたちを驚愕させたのはそこではない。本性を現すやいなや、化け物から凶悪な魔力が放出されたのだ。 「・・・・・・嘘」 シャマルの足から力が抜け、その場に膝をつく。 「まさか、ここまでとは」 シグナムたちも武器を構えているが、顔から血の気が引いている。話には聞いていたが、まるで神か悪魔のような力だ。闇の書以外でこれだけの力を持った存在がいるなど信じられない。 (今の私たちで勝てるか?) 歴戦の勇士である彼らでさえ、いや、だからこそ勝機のなさを自覚せざるをえない。 窮奇と呼ばれた化け物が喉の奥で笑う。 「見たところ、人間ではないな。なかなか強い力を持っている。貴様らを食えば、この傷も少しは癒えるかな?」 窮奇の首には骨まで達する深い裂傷があった。普通ならとっくに死んでいるような大怪我だ。 「手負いでこの力か」 「おもしれぇ! てめえの力、そっくりいただいてやる」 ヴィータが金槌型デバイス、グラーフアイゼンを振り回して突撃する。 「ふん」 魔力の放射だけで、ヴィータは軽々と弾き飛ばされる。それを合図に一斉に化け物たちが襲ってきた。 主はやての為に不殺を貫いてきた彼らだが、これほど邪悪な存在に手加減する理由はない。 無数の化け物たちを、レヴァンティンが切り伏せ、グラーフアイゼンが叩き潰す。それでも倒して切れない相手をザフィーラが退ける。倒した敵からリンカーコアを摘出しながら、シャマルが傷を負った仲間たちを回復していく。 必死に応戦するが、すべてが手練れの上、数も多い。防戦一方だった。 苦戦する守護騎士たちを、窮奇がいやらしい笑みを浮かべて眺めている。その気になればいつでも始末できるのに、シグナムたちが傷つきもがき苦しむさまを楽しんでいるのだ。 その時、 「万魔拱服!」 轟く声と魔力が、シグナムたちを取り囲む化け物たちを一掃する。 「ちっ!」 思いがけない新たな敵の出現に、窮奇や他の配下たちが逃げていく。 「・・・・・・助かった?」 ヴィータがほっと息をつき、ザフィーラが狼の姿に戻る。 「えっと・・・・・・大丈夫?」 声をかけてきたのは、不思議な服を着た少年だった。赤い古めかしい衣に、長い髪を後頭部でまとめている。その肩には、白いウサギのような獣を乗せている。 「誰だ、てめえ?」 喧嘩腰のヴィータに、少年は答えた。 「俺は安倍昌浩。陰陽師だ」 「ま、半人前だがね。晴明の孫」 「孫言うな!」 肩の獣が茶化すように言う。それに少年は半眼で唸る。 「そのウサギ、喋るのか?」 「うん。ウサギじゃないけどね。物の怪のもっくんって言うんだ」 「俺は物の怪と違う」 「おんみょうじ? もののけ?」 聞いたことのない単語の連続に、ヴィータが胡乱げに眉をひそめる。一方、昌浩も怪訝な表情だ。 「君たちは一体? かなりの霊力を持っているようだけど・・・・・・」 昌浩たちは内裏を炎上させた妖怪を追っていた。妖怪の主を突き止めたと思ったら、変な風体の女たちが戦っていた。状況を飲み込めずとも仕方ない。 シグナムが代表して、前に出た。この世界の常識がわからない以上、この少年を頼りにする他はない。 「私の名はシグナム。この地に来たら、突然、化け物に襲われて困っていたところだ。助けてくれて感謝する。彼女がシャマル。こちらの狼の姿をしているのがザフィーラだ」 シグナムたちは昌浩の見たこともない服装をしていた。特にシグナムの服はすらりと伸びた足が裾から見えて、昌浩は目のやり場に困る。 「し、しぐなむ? しゃまる? ざふ? ……変わった名前だね」 昌浩が舌をかみそうな様子で名前を呼ぶ。ヴィータがそれを鼻で笑う。 「はっ! てめえの名前だって変わってるだろうが。昌浩だっけか?」 「こら、名前は一番身近い呪なんだよ。馬鹿にしちゃいけない。それで、君の名前は?」 「ヴィータだ」 「びた? なんか濡れ雑巾が落ちたような名前だね」 「てめえ! 言ってることが違うじゃねぇか!」 カッとなったヴィータがつかみかかろうとするのを、シグナムが押しとどめる。 「すまない。われわれはここに着たばかりで、勝手がわからないのだ。出来れば説明してもらえると助ける」 「うーん。どうしようか、もっくん」 「さてな。晴明に聞いてみたらどうだ?」 「構わんよ。家に来てもらいなさい」 突然の声に、昌浩たちはぎょっとなる。 振り返ると、白い衣をまとった長身の青年が、穏やかな笑みをたたえて立っていた。 「せ、晴明!」 「え? あれ、じい様なの?」 もっくんと昌浩が目を丸くする。 「遠方より客来ると占いに出ていたが、いやはや、ここまで特殊とは。この晴明も恐れ入った」 晴明は意味ありげに笑みを浮かべる。 「では、私は客をもてなす用意をする。昌浩、案内は任せたぞ」 それだけ告げると、晴明は風のように姿を消す。 「じゃあ、ついてきて」 シグナムたちは昌浩に連れられて、彼の家に向かった。時刻が遅いせいか、それとも文明がそれほど進んでいないのか、明かりの類はほとんどない。月と星の光だけが木造の家屋を照らしている。 「似てる」 道中、町並みを見渡していたシャマルがポツリと呟く。それにシグナムが反応した。 「似てる? 何にだ?」 「この道なんだけど、前にテレビで見た京都のものとそっくり」 「言われてみれば、昌浩殿の服装も時代劇に出てきたものによく似ているな」 「何だよ。タイムスリップしたとでも言いたいのか?」 ヴィータが目を細める。 「よく似た別世界なのだろうが、その可能性もある。思い込みは危険だが、手がかりがあるのはありがたい」 昌浩は裏表のない性格のようだが、後から出てきたあの青年はどうも油断がならない。下手をすると、奴にいいように使われてしまう危険があった。自分たちの判断材料が欲しい。 やがて昌浩の家にたどり着いた。木造で一階しかないが、敷地面積が半端ではない。その広さにヴィータは唖然となった。 「お前、もしかしてすごい金持ちなのか?」 「違うよ。家が広いだけ。俺の家より広くて豪華な家なんて、たくさんある」 昌浩が苦笑する。 一行は家に入り、廊下を進む。しかし、進むにつれて、昌浩の顔が険しくなっていく。 「どうした?」 「別に。ここだよ。じい様入ります」 シグナムたちは奥にある一室に入った。そこには灯火の光に照らされて、顔に深いしわの刻まれた白髪の老人が座っていた。 てっきりあの青年が出迎えると思っていたシグナムたちは拍子抜けした。 「誰だよ。この爺は」 「さっき会った人だよ。俺のじい様」 昌浩がヴィータに憮然と告げる。 「馬鹿いうな。ぜんぜん違うじゃねえか」 「つまりこういうことじゃよ」 老人が目を閉じると、その体からあの青年が浮かび出てくる。 「これは離魂の術といってな、魂だけを遠くに飛ばす術じゃ。魂の姿だから、わしの全盛期の姿になれる」 シグナムは愕然とした。こんな魔法は知らないし、それを行うのにどれだけの魔力を使うか、見当もつかない。 (もし、この老人から魔力を奪えれば・・・・・・) シグナムの手がピクリと動いた。 その瞬間、夜色の外套をまとった男が突然現れた。 「うわっ。どっから現れた!?」 男は無言でシグナムに視線を送る。あの刹那に漏れた殺気を感じ取られたらしい。 「六合(りくごう)。下がりなさい」 晴明に言われて、外套の男は姿を消す。 「失礼。彼らは十二神将といって、わしの式神・・・・・・・そうさな、そなたたちと同じような存在といえば、お分かりかな」 老人は手にした扇をシグナムたちに向けてにやりと笑う。 (我ら守護騎士と同じ……つまり人ではないということか) どうやら正体をほぼ看破されているらしい。ますます油断がならないと気を引き締める。 「彼らは隠形(おんぎょう)といって、あのように姿を自在に消せる」 「便利なものだな」 「えっ? 人じゃないの?」 昌浩が驚いて、まじまじとヴィータたちを見つめる。 「じろじろ見るんじゃねぇ」 ヴィータが昌浩の足を踏みつける。足を抑えて飛び跳ねる昌浩を、晴明が大げさなしぐさで嘆く。 「おお、昌浩よ。そんなことにも気がつかないとは」 「そりゃ、衣装は変わってるなとは思いましたけど、だって人間と寸分違わないじゃないですか」 ザフィーラが普通の動物ではないことはわかっていたが、他は人間だと信じ込んでいた。 「己の未熟を棚に上げて、言い訳とは。わしの教えが悪かったのか。じい様は悲しいぞ」 「はいはい。すいませんでした!」 昌浩が不機嫌に怒鳴る。晴明はわざとらしい泣き真似をやめると、シグナムたちに向き直った。 「では、そちらの事情からお話いただけるかな?」 シグナムは慎重に言葉を選びながら説明した。こちらが人間ではないとわかっているなら、都合がいい。主が命の危機にあり、救うためには大量の魔力がいる。闇の書や詳しい話は省いたが、嘘は言っていない。 相手は百戦錬磨の狸爺だ。下手な嘘はすぐに見抜かれるだろう。 「魔力?」 昌浩が疑問を口にする。それにはむしろシグナムが困惑した。 「昌浩殿もあの化け物たちも使っていたではないか」 「ああ、霊力のことか。化け物が使っていたのは、妖力だけど」 「どうやら、こいつらはすべて一括りに魔力と呼んでいるようだな」 もっくんが納得したように頷く。 シグナムは話を元に戻した。 「あの窮奇とかいう化け物の魔力を奪えれば、主は助かるかもしれない」 「なるほど。窮奇か。大陸から渡ってきた妖怪。それもかなりの大物だな」 「こちらの事情は説明した。次はそちらの番だ」 晴明の話は聞いたことのない単語が多く、シグナムたちは理解に苦労した。 ようするに、晴明はこの国の政府の要職にあり、その政府で一番偉い人の娘があの化け物に命を狙われている。それを退治しようとしているのが、晴明と昌浩だった。実際に動いているのは昌浩だが。 「窮奇の目的は力のあるものを喰らって、傷を癒すこと。かの大妖怪が完全な状態になれば、どんな災厄を招くか。我々の目的はどうやら同じのようだ。協力していただけませんかな?」 晴明が提案する。 シグナムたちはすばやく視線で意見を交わす。窮奇を退治するには、自分たちだけでは心もとない。晴明も昌浩もあの十二神将もかなりの実力者だ。これだけ心強い援軍を得られるなら、願ってもない。 「こちらからもぜひお願いする」 (それにもし化け物退治に失敗しても、彼らの魔力を奪うという選択肢もできるしな) シグナムの心に苦いものが広がる。そんな裏切りをすれば、主はやてはきっと悲しむだろう。だが、彼女を救う手が他にないのであれば、シグナムはその手を汚すことにためらいはない。 「決まりですな。では、今夜は我が家に泊まるといい。私の客人ということで、部屋は用意してあります。それにその衣装も目立ちすぎますな。代わりの物を用意しましょう。それと気をつけていただきたいのですが、ここでは妙齢の女性が素顔をさらして歩くことはあまりない。出歩く時はそれを忘れないで下され」 「わかりました。何から何まで世話になって申し訳ない」 シグナムが頭を下げる。ますます古い日本の風習にそっくりだ。それを参考に行動すれば、そこまで問題はなさそうだ。 「いえいえ。お安い御用ですぞ。では、今宵はこれまでということで」 シグナムたちは別の部屋に案内された。そこにはすでに三人分の布団が敷いてあった。薄い衣を重ねて掛け布団にしている。さすがにザフィーラの分はないようだ。 ヴィータとシャマルは横になると、すぐに寝入ってしまった。 疲れていたのだろう。特にシャマルは本来後方支援なのに、前線で戦ったのだ。無理もない。 今日だけで闇の書のページがかなり埋まった。窮奇を倒せば、もしかしたら、闇の書の完成すら夢ではないかもしれない。 晴明が裏切るとは思えないが、念のため、シグナムとザフィーラが交代で見張りにつく。 夜は静かにふけて行った。 目次へ 次へ
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最初に出てきた一機に高速で肉薄。新手のまったく同じ機体が後方から動こうとするが 一機がそれを右手で制するような動作をする。 「一機で十分って言うのか!?」 一機が迎撃体制に入る。左肩の大型火器ではなく右肩の誘導弾を発射。 二発の誘導弾はすこしづづ違う軌道をとりながら急速に距離を詰める。 ノーヴェはジェットエッジをさらに加速。直撃など受けはしない。先ほどのように近接信管が起動する前に 一気に距離を詰め、自分のリーチに入り込む。 「まずは一機!!」 至近距離なら外しはしない。ノーヴェには自信があった。 至近距離から相手がばら撒くパルスライフルの弾幕を左二の腕のシールドで防御。さっきのエネのハンドガンに 比べれば熱も持たなければ一発も重くない。 「もらった!!」 右手に意識を集中。金色に光る右の拳は通常でも威力のあるノーヴェの拳がさらに強化されたということを意味する。 必中の間合い、一撃で倒せなくても当れば確実にダメージは通る。 だが、赤と黒の機体は振り上げられたノーヴェの右手の動きを読むかのように後方にステップ。 ノーヴェの右手は空を切った。それを狙ったのかのように左手のブレードに刃を形成、ノーヴェを狙う。 今度はノーヴェが受ける番。だがノーヴェは落ち着いて身を屈めてブレードを回避。そのまま左足を起点に一回転。 右足のジェットエッジを点火、加速させる。狙うのは相手の胴体と脚の接続部分、つまり一番弱い部分。 「はぁぁーー!!」 気合を乗せて蹴りを打ち込む。当れば生身だろうと魔導甲冑だろうが只ではすまない、・・・筈だった。 「っが!!」 ノーヴェの右足は受け止められた。しかも右手一本で。 「くそ!!・・・こいつ、離せよ!!・・・ぐぁ!!」 掴んだ右足をさらに強く握りこみノーヴェを持ち上げると地面に向かって振り下ろした。 地面の衝撃にノーヴェの視界にノイズが走る。体が受け止め切れなかった衝撃が与えるダメージの警告が 表示される。痛みもダメージもすべてノイズとしてカット。 「・・くそ!!離せよ!!」 だがまだ掴まれたままだった。そのまま何度も振り上げられては地面に叩き付けられる。 まるで甚振れる獲物を見つけたの喜ぶかのように頭部のレンズが光った。 それを見たノーヴェの心を恐怖が支配する。 『くそ・・・、こんな所で!!』 必死に人間的な感情を押しつぶす。腹筋部分を使い上半身を上げ、拳を叩きつける。一瞬、右足を握る腕の 力が緩んだ。その一瞬を使い左足裏を打ち込む。そのまま必死に転がり距離をとる。 頭の中で警告が鳴り響く。そのすべてを消去し相手に集中する。骨格・関節はまだ大丈夫、神経接続、 人工臓器・筋肉もダメージはまだ許容範囲!! 『こんな所でやられる訳には行かないんだ・・・。ギンガ姉に教えてもらった技術がどこまで通じるか 証明してやるんだ!!・・・それがあたしなりの恩返しなんだ!!』 ノーヴェが構える。相手の赤と黒の機体は不気味なぐらい静かに、本当にボロボロの機体なのかと 疑いたくなるくらいに静かに、そして動いている。 「ちくしょう、余裕を見せてるつもりか!?」 それがノーヴェの癇に障った。自分は余裕をなくしていた。ギンガとチンクが、 姉達が一番心配しているノーヴェの性格的な欠点が危険なところで表に出てきていた。 「うおぉぉぉーーーー!!」 一直線に突っ込む。そこに誘導弾を打ち込まれ、さらにパルスライフルが火を吹く。 「うぉぉぉーーー!!」 左右両手のシールドで体の前面を防御。魔力片が当ろうが、破片が掠めようが、魔力弾が装甲を削ろうが お構いなしに定めた相手を目指して突っ込む。 両手のガンナックルの先に力を集中。一撃で当らないのなら打撃を繰り返すのみ!! 必要以上に力を入れた動きほど読まれやすいものは無かった。 ノーヴェの続けて打ち込む拳を一機は簡単に避ける。面白がり、ノーヴェを弄ぶように・・・。 「・・こいつ!!こいつ・・・!!」 闇雲に拳を振り上げる。それが終わるのはあっという間だった。 「ぐっ!!」 相手の左拳が正確にノーヴェの胸を打った。思わず態勢が崩れるノーヴェ。そこに追撃で膝が伸びる。 膝が腹部に入る。ふらつきながらそれでも上半身を立ち上げるノーヴェの額をライフルの握把で叩く。 ふらつきながらなおも立つノーヴェの首を左手で掴み締め上げ、体ごと持ち上げる。 頭の中で警報音が鳴り響く。必死に振りほどこうとするが、まったく歯が立たない。 意識が遠くなり、耳も目も機能不全を起こしつつある体を赤と黒の機体は狙い、右手を構えた。 『畜生・・・!!うご、うごい・・・、から・・・だ・・・』 機能不全を起こしつつある体で一瞬轟音が耳に届いたような気がした。 次に感じたのは自分が振り回される感覚と左腕のごく至近で相手がパルスライフルを発砲したため、 知覚できた熱風だった。 その次に感じたのは自分が放り投げられ、飛んでいく感覚。 「私の妹を!!離しなさい!!」 一瞬誰かの声が聞こえた。だが先ほどのダメージでまだ体は麻痺していた。動けない。 頭から落ちればいくら頑丈な自分でも、もう・・・。 『ごめん、チンク姉、ギンガ姉・・・。ハチマキ・・・、出来の悪い妹で・・・』 機能が低下し、ぼやける視界に左肩のグレネードランチャーがこちらを向くのが見えた。 閉じた目でも感じれるほどの赤い光と爆発音、そして思ったより軽い衝撃。 最後には誰かにやさしく抱きかかえられる感触がした。固く結んでいた目を振るえながら目を開ける。 「・・・ハチマキ?」 「よかった・・・、首を掴まれてるのを見た時はもう駄目かと思った・・・」 スバルの展開したウイングロードの上でスバルはノーヴェをキャッチ、抱きかかえていた。 「スバル・・・姉・・・?」 「・・・大丈夫?・・・まだ痛いところはある?」 スバルの両目に涙があふれているのが見えた。自分のために泣いてくれている。本当の血の繋がった妹でもなく、 同じ遺伝子モデルを使っているわけでもない。幾度も血塗られた戦いを演じ、今でも些細なことから喧嘩をする。 「・・・ごめん、・・・スバル姉、ごめんなさい・・・」 「駄目だよ泣いちゃ・・・」 スバルが汚れるのも構わずバリアジャケットの袖で汚れたノーヴェの顔を拭いてやる。 「スバル、ノーヴェ、無事を確かめるのは後よ。今は目の前の敵を倒すわよ」 「うん、ギン姉!!」 まだ戦闘は終わっていない。ギンガは一機と相対し、遅れてドーム内に突入したなのはは様子見していた もう一機に照準を合わせていた。 「ノーヴェはここで待ってて。すぐに終わらせるから・・・」 そういうと壁にノーヴェをもたれ掛けさせ、休ませる。戦闘の場所においておくのは危険だが 今はゲートの向こうに送り届けるのは難しい。 「大丈夫だ!!まだ・・・、まだやれる!!」 体内と装備品の状態をスキャン、損傷・大破した部位との接続・修復機能を停止。修復を切断された神経系、 破損の軽い人口筋肉・関節に集中。それでも体の動きは硬くぎこちない。 「ギンガ姉、スバル姉、わたしはまだ出来る、まだやれるから・・・!!」 それを聞いたギンガが振り返りやさしく微笑みながらうなずく。スバルは一瞬きょとんとした顔をしたかと思えばすぐに いつもの精悍な笑顔を見せる。 「うん、それでこそ私の妹だよ」 「・・・ああ」 「スバル、私の右に、ノーヴェは左に」 ギンガが指示を発する。すぐにスバルが位置に付き、遅れてノーヴェが位置に付く。 二人のデバイスと直接リンクする。 <大丈夫ですか?> リンクしたマッハキャリバーが心配して聞いてくる。 『大丈夫だ、けどうまく機動出来ないかもしれないからサポートしてくれ』 <了解。お任せください> 「ミッドチルダ方面管区、108捜査警ら隊・第一捜査中隊、ギンガ・ナカジマ曹長!!」 「スバル・ナカジマ陸士長、陸上総隊総監直轄、特別救助隊所属!!」 「末妹、ノーヴェ・ナカジマ、ミッドチルダ方面管区第757調査捜索部隊、えーと・・・本部班の備品!!」 名乗りを上げた後、三人がそれぞれウイングロードとエアライナーを展張。 「「「行きます!!」」」 三人同時に加速。一人たりとも遅れることは無い。すべてが一致した加速。 目標は一つ、末妹を傷めつけてくれた一機!! 先頭は長女のギンガが受け持ち、相手に向かって突撃する。右翼、やや下がった位置にスバル。 『ノーヴェは立ち位置を変えて、ギン姉と私のシールドの内側に!!』 『了解、スバル姉!!』 目標となった一機は誘導弾と火器で弾幕を張り、中量二脚の利点を活かし高機動を活かして左右に上に動く。 動き回る相手の張る弾幕を大きいダメージを受けているノーヴェには破片ひとつでも致命傷に なりかねないための処置。 『接近すればグレネードランチャーは使えないわ。接近戦で撃破します!!』 『『了解!!』』 三人で息を合わせて正面と左右から相手の逃げ場を無くしつつ追い込み、相手を撃破する。 三姉妹の特性を活かしたは取れないが、三姉妹がリンクしおそらくは誰にも真似が出来ない正確に動きは出来る。 「トライシールド!!」 まずはギンガが近接戦闘を挑む。シールドでパルス弾に誘導弾、すべてを受け止め肉迫。 『すごい・・・。やっぱり防御魔法が使えれば・・・』 それを見たノーヴェが感想を漏らす。 ギンガは飛び上がる相手を逃さないようにウイングロードを展帳、さらにブリッツキャリバーで加速。 つづいて左手のリヴォルバーナックルのカートリッジをリロード。 魔力の籠められた左手の拳を打ち込む。 それを相手は右手の篭手で正面から受け止める。だがまだギンガの連撃は終わってはいない。 「ブリッツキャリバー、カートリッジロード!!」 左手のリヴォルヴァーナックルを下げ、もう一度打ち込む。同時に右手に魔力を収束。 『ギン姉、それって・・・』 『スバル、ちょっと参考にさせてもらったわよ』 右手の魔力塊が形になっていく。スバルのように純粋な魔力弾ではなく杭のような芯を有した魔力弾。 「さすがに・・・、女の子にドリルは恥かしいわよ!!」 一応、あのドリルは恥かしいらしい。 サーベルが振り下ろされる。後退して回避。髪の毛が何本か焼かれる。 「ボディブレイカー!!」 収束した魔力弾を左手で打ち込む。細い一本の黄色の軌跡を残して飛んで行く。狙ったのは腰部。 一直線に飛び命中、直撃。だが当ったのは狙った腰では無く、左足の大腿部。 『慣れない事はやる物じゃないわね・・・。ノーヴェ、次!!』 「了解!!」 ノーヴェが目標のやや左正面、上側からブレイクライナーで接近 「さっきのお返し!!」 右手が光る。先ほどは外したが相手は元々ボロボロの機体。しかも左足は損傷、動きは制限されている。 「私だってやってみせる!!・・・ハンマーダウン!!」 相手がギンガにかまけていた隙を使って接近する。 隙を利用し思いっきり横合いから殴りつける。相手の左胸が思いっきりへこむ。 中の人間は間違いなく気絶する程の衝撃が入るはず。。 「まだまだ!!」 右を打ち込んだ反動を使い今度は左手を下からアッパーで打ち込む。 今度は相手の機体の鳩尾に入った左手を深く打ち込む。 『・・・何だ?この感触?』 一瞬動きに迷いが生まれたノーヴェを掴もうと両腕が動く。 「させないよ!!」 スバルが接近してくる。 「まだ早ぇよ!!」 言いながらノーヴェの右足が見事な軌跡を描き、回し蹴りが飛ぶ。 恐ろしいほどの衝撃が襲い掛かっているはず。それでもふら付きながら立つ、黒と赤の機体。 「なんて奴・・・」 「どんな構造してんだよ・・・」 ギンガが感嘆しノーヴェがあきれる。 「私が行くよ、ギン姉、ノーヴェ、離れて!!」 ギンガとノーヴェが離れ、目標と距離をとる。 それに換わって一直線に伸びるのは青い空の架け橋、スバルのウイングロード!! 「これで・・・、最後!!行くよ相棒!!」 <了解、ロードカートリッジ> 右手のリヴォルバーナックルのカートリッジを二発。 相手は安定せぬ機体を必死に安定させ左肩のグレネードランチャーが発射体勢に入る。 命中時の爆風で自身もダメージを受けるはずだが、もはや形振り構っていないらしい だが、そんなモノを気にもしないでさらに加速、突っ込む。 「リヴォルヴァー・・・」 さらにカートリッジをロード、魔力を高めて右の拳を振り上げる。 さらに至近まで近接した瞬間、相手はグレネードランチャーを発砲。 だが、それを殆ど一心同体のマッハキャリバーに身を任せて回避する。マッハキャリバーは スバルの動きを阻害しない最低限の動きを算出、実行。 「ナッコォォォーーーー!!」 正面から相手を吹っ飛ばす勢い・・・、実際に相手を吹き飛ばし、標的となった赤と黒の機体は 派手に地面を転がりながら壁に当って止まり、完全に機体をダウンさせる。 「やった?」 「スバル、まだ油断しない。ノーヴェ、相手の状況をスキャンして」 「・・・機体は停止してる、中のヤツまではわかんねぇ」 「了解。二人とも散開、警戒しつつ近づいて」 三人がゆっくりと近づく。 「再起動?気を付け・・・」 相手が立ち上がった。不気味なほどの執念のなせる業か、それとも何も感じることが出来ない者が扱っているのか。 「その機体でまだやるの?」 「どうしてもと言うのなら介錯して上げ・・・って、あれ?」 相手は片膝をついた。ゆっくりと倒れこむ。倒れこんだのと同時についていたセンサー類の 光も点滅を繰り返し、消えた。 「終わったぁ・・・」 ノーヴェがへたり込み、そして横になる。 「なのはさんの方も終わったみたいね」 「ノーヴェ、大丈夫?」 ギンガとスバルが心配して駆けつける。 「ごめんちょっと無理しすぎたみたい・・・」 「いいよ、ゆっくりして」 スバルはゆっくりと横になったノーヴェを楽な姿勢をとらせてやる。 ギンガはノーヴェの頭を撫でて妹の戦いを労ってやる。 「姉達・・・、ありがとう・・・」 ノーヴェが一言とポツリとつぶやく。 それを聞いたギンガとスバルは顔を見合わせると姉として最高の笑顔をノーヴェに返してやる 「ちょっと・・・ちょっとだけ、セルフチェックしてもいい?」 「いいよ、何かあってもお姉ちゃん達が守ってあげるから」 「・・・ごめん。セルフチェック開始、重要部品の破損箇所に対して自動修復モードを起動・・・」 そういうとノーヴェは目を閉じる。ひどく無防備な安らかな表情。 「寝ちゃったね」 「酷くやられちゃったみたいだからね。ゆっくり休ませてあげましょうか」 「うん!!」 スバルが横たわっていたノーヴェを持ち上げて背中におんぶしてやる。 「いい夢を見なさい・・・」 「・・・って、ええ?」 三人が落ち着いてた時、なのはの声が聞こえた。 二人が振り返るとなのはが潰した筈のもう一機がしぶとく立ち上がっていた。 「まだやる気なの?どんな精神構造してるのよ!!」 ギンガが率直な感想を漏らした。 「やっぱり時代劇とか見過ぎなの・・・」 ナカジマ三姉妹の名乗りと正面からの突撃を横目に見ながらもう一機の赤と黒の機体と向かい合う。 「・・・力を持ちすぎたもの」 「・・・へ?」 突然、相手がしゃべり始めた。野太い男の声で。 「・・・秩序を破壊するもの」 今度は若い女性の声。 「プログラムには不要だ・・・」 同時に完全に重なった男と女の声。よく聞くと雑音やノイズが混ざっている。 「あっちと男女二人組みって言うことね・・・。いいよ、どちらか分からないけど相手してあげる」 なのはは静かにレイジングハートを構え、相手に向ける。 「レイジングハート、ブラスタービット展開!!」 <展開します> 支援用にブラスタービットを二基、設定は火力支援。レイジングハートは射撃モードへ。 それに併せて同じく自身の周囲にアクセルシューターの射撃スフィアを展開。 「アクセルシューター、シュート!!」 先手を仕掛けたのはなのは。誘導弾のアクセルシューターで相手を包囲し、さらにブラスタービットで 相手の動きをけん制。自分は横に動き回り込む。 アクセルシューターの命中したことを示す明るい魔力光が照らす。 だが相手の機体はそんな事を気にも留めないかのように加速、残弾を回避し、誘導弾を連続発射。 なのはは自分を標的にした誘導弾を残さずアクセルシューターでたらい上げ、破片すら近づけない。 「射撃戦なら負けない!!」 カートリッジを一発リロード。回避した相手に向けて収束した魔力砲を発射。 しかし最小限の動きで回避され、背後の壁に着弾、爆発。 避けた相手は左肩のグレネードを連続発射、今度はなのはが回避する番。 「やるね!!」 一発目を回避。だが回避する機動を読んでいたのか二発目を正面から受ける。 <プロテクション> レイジングハートがオートでシールドを展開。この一人と一基のコンビの生み出す硬いシールドを 一撃で抜けるものは少ない。それが広く普及しているただの炸裂弾ならなおさら。 プロテクションの隙を突き高速で接近してくる機体。だがなのは落ち着いて対処する。 「レイジングハート、魔力刃を展開、接近戦を受けるよ!!」 射撃モードのレイジングハートの下部に銃剣のような魔力刃を着剣、槍のように-杖の筈だが-構えて 接近する相手に向かい合い、ついでアクセルシューターを展開。 袈裟懸けに下ろされる相手のサーベルをレイジングハートで相手の左二の腕を抑え、鍔迫り合いで受け止め、 アクセルシューターを後ろから回り込ませて相手を狙う。 今度は多数が命中、体制を崩す相手からアクセルフィンを使用して頭の上を取りカートリッジをリロード、 注ぎ込まれた魔力の薬莢は三発分。 「ディバイン、・・・バスター!!」 ブラスタービット収束された桃色の魔力砲が標的となった赤と黒の機体を包み込み、吹き飛ばす。 <命中、直撃です。大分至近でしたが大丈夫でしょうか?> 「大丈夫だよ、殺傷設定じゃないからちょっと痛いぐらいだから・・・。あっちも終わったみたいだしね」 そういいながらゆっくりと構えを解く。 <マスター!!> 突然頼りになる相棒が警告を出す。 「レイジングハート、どうかした・・・って、ええ!?」 もう一機がグレネードランチャーを向けていた。 「まだやる気なの?」 なのはが驚きながら再び構える。 『なのはさん、離れて!!』 突然通信が入る。なのははその言葉に反応、アクセルフィンで一気に上に飛ぶ。 次の瞬間、一条の光が通り過ぎた。それは直進し、グレネードランチャの砲身の中に入る。 瞬間、大音響と共に爆発が起こる。すぐ背中で起きた爆発にまた吹き飛ばされ、しこたま体を打ちつけながら 転がっていく機体。 「うわー・・・、絶対中の人って生きてないよね・・・」 スバルがもっともな感想をこぼす。 「エネさん?大丈夫?」 『何とか・・・生きてます・・・』 だがその瞬間、ピースフルウィッシュは機能を停止、強制的にエネを除装。 「・・・ごめんね、うまくつかってやれなかった・・・」 <気になさらずに> 「うん、修理代かかっちゃうね・・・」 <まったくです。あなたの治療費も> 「そうだね・・・。直ったら・・・、またお願いね」 <了解そのときはご協力いたします。システム待機モードへ移行> エネ自身の少なからず怪我を負っていた。ピースフルウィッシュもまた大破、全損に近い被害を受けていた。 「生きていたのね、よかった・・・」 ギンガは負傷したエネを気遣う。 「はい、気が付いたのは本当にさっきですけど・・・」 「体は大丈夫なの?」 「私よりこっちの方が・・・」 エネがドックタグ型の待機状態となったピースフルウィッシュを掌に乗せ示す。 「コアデバイスは基本的なコアさえ生きてれば修理は出来ますが、使用しているパーツによって お金はかかりますけど・・・」 「・・・よければ管理局で負担してあげようか?今回の発端はうちのスバルみたいなものだしねぇ・・・」 なのははノーヴェの世話をしているスバルの方を見る。良からぬ視線にスバルは気づかないふりをした。 「でもどこから出てきたんでしょう?エネさんのゲートから出てきたみたいですけど・・・」 スバルが違う話を持ち込む。 「そうだね、どこから出てきたんだろ?ギンガ、ちょっと見て来てくれる?」 「わかりました」 ギンガは一言言うとそのままブリッツキャリバーを転がし、ゲートを開放、奥へと向かった。 「何だ終わっちまったのか?」 入れ替わりで黄色の汎用魔導甲冑に身を包んだ地雷伍長がようやく合流した。 「遅すぎですよ、伍長・・・」 エネがぼやく。 「まあ、そっちの嬢ちゃんもヤツを相手に死ななかっただけ運が良かったと思っとけ。ヤツが伝説のレイブン、 アリーナの不死身のトップ・ナインボール、つまりハスラー・ワンだ」 その言葉を理解できたのはエネだけだった。 「あれがナインボール・・・?まさか・・・、何年も前に消えたと聞いてましたが・・・」 「まあ、生きてたのかどうか知らんが顔を拝んでみようか」 なのはとエネが倒した一機に近づいてハッチの開閉ノブに手をかけ、まわす。 「どんな顔をしてるか知らんが・・・、こいつはなんだ?」 除装した機体の中は空だった。 「スバル、そっちも開けてみて!!」 なのはの指示を受けスバルがノーヴェを負ぶったまま、接近、同じように開閉ノブをまわす。 「・・・なのはさん、こっちもです!!こっちも空っぽです!!」 「そんな・・・、確かに会話をしたよ?そうだよね、レイジングハート?」 <はい、間違いなく> 『なのはさん?』 「ギンガ?どうしたの?」 割り込みでなのはを呼ぶギンガの通信が入る、だが全員に受信できるようにしてある。 『先ほどは気づかなかったのですが、隠しゲートがありました。ここから出てきたんじゃないでしょうか?』 その通信にその場に居た全員が顔を見合わせた。 「ここ?」 「はい。よく見ると表面に滑ったような跡があります」 「どこに繋がってるんだろう?」 「こんな所にゲートがあったなんて・・・。伍長は知っていましたか?」 「いや、初めて知った。ここは古い施設らしが、大体調査は終わっていると聞いていた」 六人はギンガの発見した隠しゲートの前に立っていた。因みにノーヴェはまだセルフチェック中。 「古い施設なんですか?」 なのはが地雷伍長に聞き返す。 「ああ、話によると旧暦時代の施設らしい。新暦になってから付け足された施設もあるがな」 「へー・・・」 「セルフチェック終了。戦闘機動に制限つきで許可・・・」 「あ、ノーヴェ起きた?」 スバルの背中で寝ていた、セルフチェックを実施していたノーヴェが起きた。 「うん、大体大丈夫みたい・・・って、ハチマキ!!何してやがる!!」 どうやらおんぶされていたのが恥ずかしいらしい。顔を真っ赤にして暴れだす。 「わ、こら、そんなに暴れると・・・、わぁ!!」 暴れた表紙でノーヴェがスバルの背中から落ちる。だが落ちる前にギンガがノーヴェの体をキャッチ、 ゆっくりと下ろしてやる。 「もー、さっきはちゃんと『スバル姉』って呼んでくれたのに・・・」 「呼んでねぇよ!!」 「ちゃんと言ったよねー、マッハキャリバー?」 <はい、確かに。記録もちゃんととってあります> 「いや、あれはその・・・」 ノーヴェが顔を真っ赤にして俯く。 「ノーヴェ、体は大丈夫?」 「はい、制限付の戦闘機動でしたら可能です」 一応は指揮官であるなのはが確認する。 「あまり無理したら駄目よ?」 「うん、ギンガ姉・・・」 やっぱりギンガ姉は優しいな・・・。ノーヴェはそう思った。 「予定外の行動だけど・・・、とりあえず潜ってみようか?いくのは私とスバルとギンガで行こう。 ノーヴェはここで待ってるほうがいいね?」 なのはが決定を下す。 「そんな・・・、あたしはまだやれるって!!」 「ノーヴェ、指揮官の決定には従いなさい。今はなのはさんが指揮官なのよ?」 「・・・ギンガ姉、でも本当に大丈夫だから・・・、足手纏いにはならないから!!」 「伍長はここで誰も入らないようにしておいていただけますか?」 「それでこれは出るんだろうな?」 地雷伍長が親指と人差し指をあわせて丸いサインを作る。 「一定額を捜査協力費でお支払いできるでしょう。ですが後払いですよ?」 指揮官役ののなのはが一応契約を取りまとめる。 「構わんよ、だが期待はするな。俺はなんて言ったってアリーナの万年最下位だからな」 そういうと豪快に笑った。 『『『『・・・万年最下位なのにどうやって機体を維持したり生活してるんだろ?』』』』 エネ以外の四人は同じような疑問を頭に思い浮かべた・・・。だがそれを口に出すほど野暮ではなかった。 「あの私は・・・?」 「エネさんは無理しない方がいいわ。控え室に戻って休んでいたほうがいいよ」 「そうだよ。修理費とかは大丈夫、エネさんの分もちゃんと払ってあげる。・・・スバルのお給料からね」 「そんなぁ・・・」 「自業自得だろ・・・。わたしはそれで死にかけたんだからな・・・」 ギンガがエネを心配し、なのはが報酬を請負い、ノーヴェが恨めがましく言う。 「先頭はギンガ、マークスマンはスバル、次に私。ノーヴェは後衛で警戒。前進速度はそんなに速くなくて いいよ。壁とかに隠されている通路とかに注意。ノーヴェはレイジングハートと キャリバーズと直接リンクしてマッピングしておいて。みんな準備は良い?」 「「「はい!!」」」 三人が各々の利き腕を突き上げ返事をする。本当の姉妹ではないはずだが本当に良く似ている三姉妹である。 「よし、じゃあみんな行こうか」 なのはがレイジングハートを隠し通路にむけた。それを合図にギンガを先頭に暗い通路内に入る。 次にスバルが通路に入り自分の番になった時、後ろに立つノーヴェを振り返る。 「本当に大丈夫?」 「大丈夫です、戦闘機人がこんな事で倒れません」 「なにかあったら…、チンクちゃんやセインちゃんが心配するよ?冷たい事ばかり言ってるけどトーレさんも…」 「はい…、でも大丈夫です。戦って倒れたなら戦闘機人の本望だって、きっとみんな言ってくれますから…」 そういうとノーヴェは笑った。 『普段の生活の中で番感情表現が豊かな娘に育ったんだね。ナカジマ家の教育がいいのかな?』 自身の弟子とも言うべき子は相変わらず感情の起伏が表に出ない娘のままだった。 <マスター、彼女のポテンシャルは落ちています。やはり置いて行くべきでは?> 『彼女なら大丈夫だよ、レイジングハート。でも目を離さないであげて』 <お任せください、マスター> 「じゃあ行くよ。しっかり付いてきてね」 アクセルフィンを展開、一気に加速して先発した二人を追う。 「遅れるかよ…!!」 ノーヴェは三人の後を追う。ジェットエッジを加速させ通路の闇へと消えていった。 「さて、じゃ仕事をするとしますか・・・」 四人が通路に消えた後、地雷伍長がぼやき機体を着座させる。 「仕事って・・・、なんで座ってるんですか、伍長?」 「まあ仕事はここで監視してろって事だろ?それに今、この施設に入ってこれるやつは居ると思うか?」 「それはそうですが・・・」 今現在、シャッターが施設の通路の大半を閉鎖している。今頃来たレイヴンは必死に開けようと苦労しているのだろう。 「分かったらお前もとっとと控え室に戻って応急処置して休んでおけ」 「そうですね・・・、じゃあいったん戻ります」 エネが踵を返して戻る。 「ああ、ちょっと待て」 地雷伍長が呼び止める。 「入っていったあいつらが帰ってきた時の為に茶とか軽食を用意しておいてやれ。それと・・・」 一瞬区切って考える地雷伍長。 「誰か来たら軽食と魔法瓶に入れたコーヒーを俺のところに持って来させてくれ。ただ待つのは勘弁だ」 それを聞いて了解の返事のつもりか崩れた敬礼と笑顔を返すとエネはそのまま通路を歩いていった。 歩いていったのを確認して地雷伍長は頭部ハッチを開放腰部の雑具箱から器用にタバコとライターを取り出し、 一本吸い始め、紫煙を吐き出す。 「まさかとは思うが・・・、こいつは本部か例の秘密工場への隠し通路じゃなかろうな?」 地雷伍長の呟きを聞いたモノは彼のデンジャーマイン以外、誰も居なかった。 戻る 目次へ 次へ
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今から150年以上前…あらゆる次元世界に戦いが蔓延していた頃、ミッドチルダに三人の魔導師が存在した。 三人の魔導師は、ミッドチルダ南西部のとある地方において謎の石を発見する。 その石は真っ二つに割れたかのように欠けていて、外見はただの石であった。 …しかし石の内部には謎のエネルギーが残留しており、更にそのエネルギーを解析すると、 エネルギー内には魔法技術や質量兵器技術、果ては様々な世界の歴史など膨大な知識が保存されており、 中には伝説級のアルハザードの技術や情報、神話級の魔法技術や情報が蓄積されていたのである。 …これらの情報を知った三人の魔導師は、ある野望を抱く事となる。 この情報と技術を応用・併用すれば、この次元世界を纏め上げ事すら不可能ではない。 それは正に神の所業、つまり我々は神になる事が出来る… 三人の魔導師は互いに協力し合い、神になる為の道を歩み進む事となった… リリカルプロファイル 第二十八話 角笛 …その後、三人の魔導師は石の情報を基に次元世界を纏め上げ平定、 75年後にミッドチルダに時空管理局を設立し、三人は最高評議会と名を変え表舞台から姿を消す。 設立から月日が経ち、石を中心とした巨大なデータベースを保有した超巨大次元船を設立、 その後次元船は本局と名を変えデータベースもまた無限書庫と名を変え現在に至るのであった。 そして現在…ミッドチルダに東部の森に存在する洞穴の前に三人の人影が存在する。 ヴェロッサ、シャッハ、アリューゼである、彼等はなのは達がセラフィックゲートに向かっている頃 スカリエッティの居場所兼ラボである聖王のゆりかごへの潜入と魔法技術のルーンを解除の為に、 ティアナによって齎されたディスクの情報を頼りに此処へと赴いたのである。 「…しかし来たのはいいが、どうやって潜入する?ルーンって奴で存在次元を曲げられてんだろ?」 「勿論、此方にもそれなりの用意はあるさ」 アリューゼの疑問にヴェロッサは答えると、懐から液体が入った二つの瓶を取り出す。 ルシッドポーション、これは無限書庫に記載されていたルーンの情報を基に、一時的に存在次元をずらし透明にするものであるという。 つまりはルーンが起動している時と同じ現象を作り出す代物なのだが、効果は五分程度であるのが弱点であると付け加える。 「でも五分もあれば僕のレアスキルで潜入することは可能だからね」 そう言うとヴェロッサの下に半透明の猟犬が多数姿を現す、ウンエントリヒ・ヤークトと呼ばれるヴェロッサの魔力を用いて 目視や魔力深査に対し高いステルス性を誇る猟犬を作り出すレアスキルであり、 更にコンピュータにアクセスしての情報収集や、障害物を通り抜けたりする事も出来るのである。 そして今回はルシッドポーションを猟犬に振りかけることで、効果を与え侵入を可能とするものであった。 「でも…君が潜入するとはねぇ」 「何だ?まだ文句があんのか?」 …本来アリューゼはこのような任務は得意ではない、寧ろシャッハの方が能力的に適している。 しかし今回はアリューゼたっての希望でヴェロッサ達に嘆願し、シャッハに代わって潜入する事になったのだ。 「まぁいいさ、とりあえずがんばって」 ヴェロッサは一つ挨拶を交わすと開始時間となり、アリューゼは受け取った瓶の中身を飲み干し ヴェロッサは猟犬達に振りかけると徐々に姿を消し見えなくなる。 だが本人達は消えた事が分からないようなのであるが、五分しか保たない為に急いで洞穴を通る。 …比較的長い洞穴を駆け足で抜けると広い空洞に当たり、中には巨大な船の姿がある。 「これが…ゆりかごか……」 〔惚けてる時間はないよ〕 猟犬からヴェロッサの窘める言葉が響く中で、入り口らしき場所を見つけると 猟犬は早速ハッキングを仕掛け、直ぐに扉を開けると飛び込む形で乗り込み直ぐ様扉を閉める。 「大丈夫なのか?」 〔うん、痕跡は残していないからね〕 直ぐにバレるようじゃ査察官は務まらないと猟犬から笑い声が響く中で、 ヴェロッサは直ぐに真剣な口調へと変え此処から先は二手に別れようと提案する。 自分は引き続きルーンの解除とスカリエッティの居場所の詮索 アリューゼはアリューゼが望む事をしてくれと説明を終える。 「気付いていたのか……まさか!てめぇ思考捜査を!?」 「…君は簡単に顔に出るんだよ」 嘆願の頃からアリューゼは何かを胸に秘めていたのが分かっていた、だからシャッハも快く代わってくれたと話すと 頬を掻いてばつの悪そうな顔をするアリューゼ、それを後目に猟犬はゆりかごに放たれ、 アリューゼもまた自分のすべき事の為、先に進むのであった。 場所は変わり翌日の朝、此処はミッドチルダ北部聖王教会から更に北に位置する雪に覆われた巨大な山 此処は年中雪に覆われており、梺の村では大雪山と呼ばれている場所でもある。 その極寒の地の奥にある木々が大茂る森の中に、一カ所だけ切り取られたかのように草木が生えていない場所がある。 其処には青い線で描かれた魔法陣が刻まれており、その前に一人の女性が立っていた、メルティーナである。 メルティーナは無限書庫の情報によりこの場所を知り、なのは達を送った後此処へ赴いたのだ。 そしてメルティーナは徐に魔法陣に手を伸ばし触れると、無限書庫で得た詠唱を始める。 「…極寒の地にて眠りし冷厳なる魔狼よ…我が前に姿を現せ!!」 すると魔法陣が輝き出し、中央から巨大な狼が姿を現す。 メルティーナが呼び出した狼は、かつてこの地域で信仰されていた伝説の狼なのであるが 傲慢な態度と我が儘な行動で誰にも従わず好き勝手に暴れまわり、 結果的に人々から畏怖の念で見られ此処に封じられた存在なのである。 そんな狼の体は大きく氷のような青い体毛に覆われ、首下には金色の首輪が付けられており、 目は赤く輝き口から白い息が漏れ出す中で、狼はメルティーナに問い掛ける。 「俺を呼び出したのは貴様か?」 「そうよ、私の名はメルティーナ、率直に言うわ、アンタの力が欲しい!!」 メルティーナは狼に指を指して答えると、狼は大声を上げて笑うとメルティーナの申し出を断る。 狼曰く…俺は俺の為に生きており、誰かの…ましてや女に使役されるつもりは無いと、傲慢に満ちた表情で答える。 だがメルティーナも負けてはおらず徐に左手を狼に見せると其処には、金色の絹糸のような紐で出来た腕輪が付けられており、 その腕輪を見た狼の表情が一転する。 「貴様!何故それを…グレイプニルを手にしている!!」 メルティーナが身に付けている腕輪の名はグレイプニル、狼の首に付けられた金色の首輪と同じ材質で作られた封印の切っ掛けとなった代物である。 …かつてこの地を訪れた高僧が片腕と引き替えに取り付けた物で、この腕輪を身につけた者に逆らう事が出来ず それにより狼は封印され、腕輪はこの地に安置されていたのだが、管理局が腕輪をロストロギアと判断した為、場所を本局へと移し 永らく本局の保管庫内で埃を被っていたところを、無限書庫の情報によって知ったメルティーナがパクっ………借りたのである。 「これさえあればアンタは私に逆らえない!」 メルティーナは狼以上に傲慢な態度で挑むと歯噛みしながら睨み付ける狼。 しかしどれだけ悔しがってもメルティーナに逆らうことは出来ない 何故ならグレイプニルは狼の動き全てに作用し、封じられ果ては意志に背いた形で動きを操られしまうからである。 それを知っているからこそ、メルティーナはあの様な横柄な態度をとれるのである。 ……尤もメルティーナ自身の度胸も関係してはいるのではあるが…… 「ぬぅ……仕方あるまい…しかし!寝首をかかれる覚悟はあるのだろうな!!」 「ウルサいわね!アンタは私の飼い犬になっていればいいのよ!!」 狼の威圧もメルティーナは横暴な態度と言葉で一刀両断し 口を紡ぐ狼を見て更に見下すメルティーナであった。 場所は変わり此処はゆりかご内の施設、中ではナンバーズ達が最終決戦に備えて模擬戦を行っており、 その中には戦闘スーツで身を飾ったギンガの姿もあり、すっかり馴染んでいる様子であった。 「では各自励むように…以上!!」 トーレの掛け声を合図に解散するとチンクとトーレは最後の調整として話し合い始め ギンガはディエチと共に食堂へと赴こうとしていると、そこにノーヴェとウェンディが姿を現す。 「どうしたの?二人とも」 「二人に質問ッス!どうやったら二人みたいなコンビネーションが出来るんッスか!!」 今回の模擬戦の中でギンガはディエチと組み、ノーヴェはウェンディと組んで行った。 結果は一目瞭然でギンガの動きに合わせてディエチはウェンディの動きを牽制 ノーヴェは真っ向勝負をかけるが、ギンガの動きはフェイントで、実はウェンディを狙っており ノーヴェはすぐさま追おうとしたところをディエチに出鼻を挫かれ ウェンディは焦りながらエリアルショットにてギンガを迎撃しようとするが難なく回避 ライディングボードごとウェンディを叩き付け吹き飛ばし、一方でノーヴェはディエチの下へ向かおうとするが、 ディエチは既にイノーメスカノンからスコーピオンに持ち替え迎撃、ギンガ達の勝利で幕を閉じたのである。 二人の息の合った動きと更に言えばギンガの能力はノーヴェと酷似している為に、参考として聞きに来たのである。 すると二人の向上心に感心したギンガは快く応じ、その中で休みたいのに引っ張り出されるディエチであった。 その頃レザードの自室では席に座ったレザードがナンバーズ達とギンガの仕上がりを確認していた。 仕上がりは良好で、特にギンガの洗脳は今までゆりかごで暮らしていたかのように順応しており、 順応こそが最大の洗脳効果である事を証明していた。 一方で戦闘面での仕上がりも良好で並の魔導師や不死者では相手にならない程まで成長している…と践んでいると、 後方から助手であるクアットロが資料を持って話しかけてくる。 「博士!強化型の不死者の量産の目処が付きましたよぉ」 「それはよかった、では見せて貰いましょうか」 レザードはクアットロが手にした資料を受け取ると流し読みする。 資料にはドラゴントゥースウォーリアを始め、自爆を主としたウィル・オ・ウィスプ、後方支援に適したイビル・アイ、 三体の獣を合成したパラミネントキマイラ、高い回避率を持つグレーターデーモンなど 今までとは全く異なる強力な不死者の量産成功が綴られており、 流石のレザードも眼鏡に手を当て喜びの笑みを浮かべ、それを見ていたクアットロもまた笑みを浮かべていると レザードのデスクのモニターに目がいき、つい質問を投げかける。 「博士?これは?」 「ん…これですか?対エインフェリア用の強化プランですよ」 三賢人が造り出したエインフェリアは高性能で、多数の不死者で相手をしたとしても焼け石に水の状態は目に見えている、 その為、質に対し量で適わぬのなら質を上げるしかないという考えに至ったレザードは、 スカリエッティと共同でナンバーズのレリックウェポン化を決定したのだという。 かつてレリックウェポンに使われているレリックは危険なロストロギアであったのだが 二人のレリックウェポンやベリオンなどのデータにより、安定した魔力を供給することが出来る 安全な高エネルギー資源へと生まれ変わった為、今回の強化プランを実行出来たのだという。 レリックによる強化は身体強化が主なのであるのだが、 トーレはインパルスブレードの出力強化、チンクはヴァルキリー化の際の能力向上 セインはフィールドを用いた対消滅バリアを展開し、バリア・フィールドに覆われた場所もダイブする事が出来るようになり セッテはブーメランブレードをクロスに重ね手裏剣のような形で投げれるようになった事と、回転速度・精密度などの向上 オットーは更なる広域攻撃化と結界の強化、ノーヴェは失った右足の強化と 両足に加速用のエネルギー翼を展開する事でA.C.Sドライバークラスの突進力を実現させ ディエチは超遠距離の精密射撃の実現と弾頭の軌道操作能力 ウェンディはセインと同様の対消滅バリアをライディングボードに展開させる事が出来るようになり ディードはツインブレイズのエネルギー刃を伸ばすことが出来るようになり、四階建てのビルなら両断出来る程の能力などが加わるのだという。 「へぇ~それで博士私は?」 「……貴女は前線に出ないでしょう?」 クアットロは不死者及びガジェットの操作・制御を主にしている故に 強化プランは必要無いと肩を竦め答えるレザードに対し、心なしか残念そうな顔をするクアットロであった。 場所は変わりスカリエッティの研究施設では、ゆりかごの調整に勤しんでいた。 そんな施設の中で二つの似つかわしくない物が存在している、 一つは左手用で指先が鋭い金属で出来たグローブ型のデバイスと 刀身が艶のある黒に禍々しい印象を感じる飾りが付いた鍔と片手用に短くなった柄の片手剣である。 剣の名は魔剣グラム、かつて手に入れた妖精の瓶詰めを基に錬金術により変換した オリハルコンを材料に造られた剣型アームドデバイスである。 恐らくこの世界で、レザード以外にアーティファクトを元にしたとはいえ、オリハルコンを作成したのはスカリエッティだけであろう。 そしてもう一つは防と縛に特化したアームドデバイスで、此方は流石にオリハルコン製ではない。 その二つのデバイスを目にしたウーノはスカリエッティに質問を投げかける。 「ドクター?これは一体……」 「あぁ、私専用のデバイスだよ」 今回の戦闘は総力戦といっても過言ではない、自分が育てた“愛娘”達が負ける事はないと思うが 万が一乗り込められた場合を想定して造ったと語ると ウーノは胸に手を当て大声を上げてスカリエッティに訴えかける。 「大丈夫です!もし攻め込められたとしても、私が命を懸けて―――」 「いや…ウーノにはもっと重要な任務がある」 そう口にすると突然席を立ち、徐にウーノの唇に優しく手に掛け顔を近づけ、スカリエッティの突然の行動に顔を赤らめ目線を逸らそうとするが、 スカリエッティの澄んだ瞳を避ける事が出来ず、じっと見つめ続けているとスカリエッティは静かに甘い吐息混じりで言葉を口にする。 「……私の子を孕め」 ウーノは他のナンバーズ、特に初期の三人の中で体の作りは人に近く、子供を孕む様に出来ている。 それに…もし自分が消える事になった場合、自分が生きた“証”を残しておきたい。 その一つは“歴史”であり、もう一つは“遺伝子”である、 そして“証”の内の一つである“遺伝子”をウーノに受け取って欲しいと告げる。 ウーノはスカリエッティの言葉を一字一句聞きながらもその瞳は逸らさず 話を終える頃にはウーノの瞳は妖美に満ち、徐に上着を脱ぎ捨て、たわわに実った果実を晒し出すと スカリエッティに抱き付き、更に首に手を回して見つめ合うと、甘い吐息を吐くのように応えるウーノ。 「…私の体はドクターのモノです……」 その妖艶な笑みと口調にスカリエッティの理性が飛び、口付けを交わしながら実った果実に手を伸ばし 倒れ込むように押し倒して、二人の濃密な時間が流れ始まるのであった…… 場所は変わり翌日の夜、聖王教会の会議室に対策本部を設置したクロノはユーノを始め本局、 ゲンヤを始めとした地上本部と共に今後の対策を練っていた。 しかしその面子の中にカリムの姿はなかった、彼女は自室にて翻訳された予言を読み返していた。 予言の大半を読み返していると一つの文に目が行く、それは―― “神々と死せる王が相対する時、神々の黄昏を告げる笛が鳴り響く”である。 神々とは恐らく神の三賢人の事であろう…しかし死せる王とは一体誰のことを差すのであろう… 歪みの神はレザード、無限の欲望はスカリエッティというのは、既に明らかにされている。 今回の事件の張本人達が次々に明らかにされていく中で、死せる王が誰なのからない… 故に不安は未だ拭えず眠れぬ夜が続いているのであった。 翌日の昼、今日も朝から議論が交わされている中で一報が届く。 それは神の協力を得る為に向かったなのは達機動六課前線メンバーが、今し方帰ってきたというものである。 その一報を聞いた対策本部はざわめき始める、なのは達は神の協力を得られたのか?それとも敗北による撤退だったのか? いずれにしろ報告する為ここに顔を出すだろう…クロノがそう考えていると対策本部にノック音が響く。 クロノは返事をするとなのは達が部屋へと入り、その顔は今までとは異なる程自信に満ちていた。 その表情に淡い期待を胸に秘めながらクロノはなのは達に問い掛ける。 「先ずは無事に帰って来て何よりだ……それで神の協力を得られたのか?」 するとなのはとフェイトは互いに目を合わせ頷くと、腰に添えてある杖を見せる。 この杖は神の協力を得た証拠であると話すと、対策本部は一斉に沸き立ち 歓喜に満ちる中でユーノがなのはに抱きつきながら激励を込める。 「やったね!なのは!!」 「ちょ!?ハシャぎ過ぎだよユーノ」 そう言ってなのはは顔を赤らめ照れていると、その様を見たはやてが出発前の事を思い出す。 …そうだ!無事生還したらなのはと共にお祝いの赤飯を炊かねばならんかった… はやては歓喜に満ちた対策本部をこっそり抜け出して、食堂にある厨房へと赴く、 そして暫くすると対策本部には赤飯に鯛の尾頭付き、更にビフテキにカツカレーなどがズラリと運ばれて来た。 今回の祝杯と今後の栄喜を養う為に、はやて自らが腕を振るい更に監修して用意したようである。 対策本部は一時宴会場と変わり、飲めや歌えやの大騒ぎとなっていた。 翌日、場所は変わりスカリエッティの指揮の下、ゆりかごの最終チェックが行われていた。 ゆりかごは当初、激しく損傷していたのだが、長い時間をかけて修復を完了 そして動力炉に繋がれた聖王の遺伝子を所有したベリオンによる動力炉の起動確認も完了し、 更に余ったレリックを使う事で動力エネルギーを手にする事が出来た。 後はこの最終チェックを完了させればゆりかごを起動させる事が出来る、 すると其処にレザードとクアットロが姿を現す、レザードの方は既に準備が完了しており、 後はスカリエッティの演説と“ゆりかごの主”の合図を待つばかりであると。 その時である、いつもいる彼女がいない事に気が付いたレザードはスカリエッティに問い掛ける。 「おや?ウーノの姿が見当たりませんが?」 「あぁ、ウーノは船を下りたよ」 スカリエッティは最終チェックを行いながら淡々と答える。 ウーノには重要な任務を与えた、しかしそれは此処ゆりかご内で出来る事ではない為 彼女を船から降ろし任務に専念して貰ったのだと語る。 その為、ゆりかご内の防衛及びガジェット・不死者の官制はクアットロに全て任せると告げると ウーノの代わりとはいえ責任ある任を受け、笑みを浮かべ喜ぶクアットロを後目に、逆にスカリエッティが質問を投げ掛ける。 「ところで“聖王”の方はどうなんだい?」 すると眼鏡に手を当て不敵な笑みを浮かべると話し始める。 “聖王”には“聖王”としての自覚を持たせ、更に王の印たる二つのレリックを取り付ける事により、 “聖王”として完成を迎え、今はゆりかご内に存在する王の間にてその時を待っていると。 …ただ、今の“聖王”はかつての姿とは異なり“貫禄”が身に付いていると語る。 「ほう…それはすばらしい、では早速行こうか」 レザードの会話の中で最終チェックを済ませたスカリエッティは席を立ち、 王の間へと向かうと、あとに続くレザードとクアットロであった。 そして夜…聖王教会の対策本部にはまだ灯りが灯っており、昼夜問わず議論が重ねていた。 その時である、議論を提示するモニターにノイズが走り映像が切り替わると、スカリエッティを映し出した。 この電波ジャックはミッドチルダ全土に及び、なのは達は待合室でその様子を観察していると 映像のスカリエッティは狂気に満ちた表情でゆっくり口を開き始める。 「ミッドチルダに住む諸君…久し振りだね、私を覚えているかい?」 …誰もが忘れる訳が無い、地上本部壊滅の一端を担い世界を破滅に導く存在を… そんなミッドチルダ全土の思いを後目にスカリエッティは話を続ける。 …いよいよ彼等は動き始める、今までの時間はミッドチルダを壊滅させる為の準備期間であったと。 「見たまえ!これが我々の戦力だ!!」 すると映像は引き絵に変わり、画面には夥しい数のガジェットと不死者が犇めいており、 ガジェットには新たな武装が追加され不死者も今までとは異なる凶悪さが垣間見てとれた。 スカリエッティ曰わくガジェット及び不死者はこれで全部なのではなく 至る場所に量産施設が存在し、其処から無数の軍勢として姿を現すと饒舌に語る。 「だが…コレだけではない、我々は遂にベルカの王を復活させたのだ!」 スカリエッティは両手を広げ宣言すると映像は王の間に切り替わり、 左右にはナンバーズ達が立ち並び、その列にギンガの姿も存在していた。 一方でギンガの姿を見かけたスバルとゲンヤは思わず目を見開き、 スバルに至っては両膝をつき、そのいたたまれない姿にティアナはそっと肩に手を置く。 しかしその光景を後目に映像は続き、奥の王の座が映し出されると其処には一人の女性が座っている。 その女性の年齢は17歳前後で服装は黒を基調としたバリアジャケットと騎士甲冑を合わせた造りの服に 髪をサイドポニーで纏め、その髪型は普段のなのはと酷似していた。 そして女性は目を開くと左右が紅玉と翡翠色をしたオッドアイで、その目を見たなのははヴィヴィオである事を確信した。 …いや確信せざるを終えなかった、あの瞳を見る前からそうではないかとなのはは感じており、 実際にそれが合っていた事に対し、流石のなのはも動揺を隠せずいると 映像のヴィヴィオが立ち上がり一つ間を置いて言葉を口にする。 「…私の名は聖王ヴィヴィオ、このゆりかごの主にしてベルカの王である」 ヴィヴィオの口から放たれるその言葉は威厳に満ちており、その佇まいは風格すら感じる。 そしてヴィヴィオは自分達の目的を話し始める。 「我々の目的はこのミッドチルダを土台に我々の世界…新たなベルカを創り出す事にある」 元々古代ベルカは此処ミッドチルダに侵略する為に来た、 故に本来の目的を知ったヴィヴィオはミッドチルダと言う“土台”の上にベルカを設立すると語る。 その言葉に苦虫を噛むような表情で映像を見るはやて。 「冗談やない!私等は肥やしやない!!」 はやては対策本部の机と強く叩き吐き捨てるように言葉を口にすると、それに呼応するように周りの人々が一斉に頷く。 一方で、はやては同じく演説を聞いていたカリムの顔を見る、するとはやての行動に気が付いたカリムははやての顔を見てにこやかに微笑む。 「安心してはやて、幾ら彼女が聖王だったとしても教会は協力を惜しみません」 …確かにかつてベルカはミッドチルダに侵攻した、しかし今は友好的な繋がりが出来ている、 それを捨ててまで聖王に…ましてやスカリエッティにつく事は有り得ないと断言するカリム。 しかしヴィヴィオの演説はまだ終わってはいなかった。 「この世界の住人に出来る事…それは速やかに死ぬ事、抵抗は無意味…死を受け入れなさい」 そうすれば苦しむ事なく生から脱却できると言葉にすると、 間髪入れずに老成の声が辺りに響き渡る。 「…いつからミッドチルダは貴様達のモノになったのだ?」 するとモニターが二分割され、其処にガノッサが映し出されるとクロノは歯噛みしながら睨み付ける。 ガノッサの周りにはエインフェリア達がずらりと並び立ち、ガノッサは杖で床をつつくと話し始める。 「ミッドチルダに住む諸君、いよいよ時は満ちた!貴様等が我々の礎となる為のな!!」 すると映像は海上を映し出し、ルーンを解除したヴァルハラがゆっくりと姿を現す、 …今までの潜伏は戦力を整える為のものであり、既にそれが揃った今だからこそ行動に移すと息巻いた様に語るガノッサ。 「見よ!これが我々の切り札である!!」 ガノッサは杖を高々に上げると映像が切り替わり、二つの月が映し出され、その間に何かが出現する。 其れは巨大な赤い水晶体のようなものに両端には竜の翼を象ったものがあり、 そして水晶体の中心からは管が何本の伸びており、ラッパのように先端が広がった砲口に繋がれていて、砲口には竜を象った飾りが付いていた。 人々がその存在に困惑する中で、クロノの端末に独自の諜報員からのデータが今し方送られてきており、 それに目を向けると驚愕し、思わず映像に目を向け声を荒らげた。 「奴らなんて物を!!!」 「さぁ終末を告げる笛の音よ!今こそ奏でてやろう!!」 ガノッサは高々と上げた杖を振り下ろしながら宣言するのであった。 …場所は変わり此処はミッドチルダ西部エルセア地方、人々はスカリエッティと三賢人の演説に聞き見入り 空は満天の星空で雲が一切無く星々が人々の頭上で力強く輝く頃、 一つの赤く輝く星の光が徐々に輝きを増し更に巨大化すらしていき、 それが映像に映し出されている攻撃であると気が付いた頃には辺り一帯を赤く染め上げ 攻撃が大地に突き刺さると一気に広がりを見せ、その光はエルセア地方全土を包み込み 赤い光が一筋の光となって消滅すると、エルセア地方は巨大なクレーターとなってミッドチルダの地図から消滅したであった… この一部始終はミッドチルダ全土に流れており映像には巨大な魔力砲を撃ち終えた砲口が映し出されている。 「これが我々の切り札、その名もドラゴンオーブである!!」 ドラゴンオーブ、二つの月の軌道上に設置された巨大魔導兵器で、 左右の二枚の翼で月の魔力を受け止め、中央の赤い水晶体によって増幅・圧縮、 そして砲口にて加速され撃ち放ちその威力は一目瞭然、常軌を逸していた。 そして今の今までその存在に気が付かなかったクロノは八つ当たりするように机に向かって拳を振り下ろす。 「情報が………遅すぎる!!!」 一方で現場や他の地域はアリの巣をつついたかのような大騒動に発展しており、 その情報は対策本部にまで伝わっており、ゲンヤの指揮の下、対応を取り始める中 映像には未だガノッサとヴィヴィオが相対するように映し出されていた。 「我々はこの力でミッドチルダを破壊し全ての憂いを晴らし神の道を行く!!」 「そうはさせない、この世界は我々の世界の礎として必要な物である、破壊などさせてたまるか!!」 互いは相対しながら睨み合い、宣戦布告すると両者の映像が消え、 その中でカリムは一人、予言の一文を思い返していた。 …神々と死せる王が相対する時、神々の黄昏を告げる笛が鳴り響く…と…… 前へ 目次へ 次へ
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高層建築の立ち並ぶ都市の一角。 夜の闇と、静かに降る雨に包まれながら一つの人影が歩いていた。 整った顔立ちだが、不思議と印象に残らない容貌の男。落ち着いた風格がある一方で 全てに興味が無い無関心さを連想させる。 男は無言で状況を確認するように周囲を見渡す。 突然男の一歩後ろ、一瞬前まで誰もいなかったはずの空間に二つの影が現れた。 否、実際にそこには誰もいない。二つの影は男にしか見えない『悪魔』だ。 「さて、僕らは何故こんなところにいるんだろうね? さっきは『魔法』なんてものも見たし、どう考えても 僕らの知る世界ではない。」 右の影―――どこか楽しげな笑顔を浮かべた半月眼鏡の青年。そんな皮を被った悪魔に もう一つの影―――彫りの深い怜悧な顔立ちに長い銀髪、ワインレッドのスーツという 眼鏡の悪魔に比べ随分派手な悪魔が似合わない訛りで応える。 「そんなん俺に分かるわけ無いやろが。そうゆうん考えるんはお前の仕事やろ、ひょうたん眼鏡」 「別に答えを期待したわけじゃない。ただ、お前なりの見解を聞きたかっただけさ。 ……そういえば『ひょうたん眼鏡』なんてあだ名をつけたのはお前だそうじゃないか、ベリアル。 別に間違ってはいないと思うが、お前のおかげで海野君にまでそんな名前で呼ばれてしまった。 どうしてくれるんだおちゃらけ蛇。 まったく、何で僕はまともなあだ名がつけられないんだ。 『指導者』はまだ良かった、地味だが的確に僕の役割を表していた。 それでも自分のライバルになり得ると目していた相手に妙なあだ名で呼ばれてしまう上に 久美子君には『ベルぱー』なんて呼ばれてしまう始末だ。 信じられるか? 『ベルぱー』だぞ、『ベルぱー』! 確かにそれは僕が指定した『ベルゼブブ・パターン』の略称だろう。 だが、その呼び方はどうなんだ、セルネットの創始者を呼ぶには些かどころではなく 迫力や風格が削がれてしまうじゃないか!!」 どうやら話が長くなる傾向があるらしい眼鏡の悪魔はひとしきり不平を言うと気を取り直し続けた。 「―――話が逸れたな。実のところ僕は僕たちがどこにいるのかという問題に対し一つの仮説がある」 「なんや? その、仮説いうんは」 「何というか……かなり馬鹿馬鹿しいんだが、『ここ』は『異世界』とか『異次元』とか言うヤツじゃないかと思って る」 「……はぁ?」 眼鏡の悪魔がいきなり突拍子も無い事を言うのには慣れていた銀髪の悪魔も、それしか反応できなかった。 眼鏡の悪魔もその反応に頷きながら説明する。 「その反応は予想できたさ。自分でも相当に馬鹿な事と思っているぐらいだからね。 だが、それ以外では僕には説明ができない。 『王国』?それはあり得ない。 我らが陛下は眠りについた筈だし、物部君の心象にこんな大都市があるわけがない。 ではカプセル以外の何らかの要因による幻覚? 肉体があるバールはともかく、僕やベリアルに影響があるなんて考えられない。 そして先ほど目にした『魔法』。どう見ても、僕らが知るオカルト的な魔術では無かったし この通りを歩いていて目に入る看板や標識の文字。少なくとも僕の知識にはあんな文字は無い。 もっとも『ここ』でそれなりの時間を過ごしていれば、いずれ分かる事だけどね。 それ以上に気になるのは『それ』だ」 眼鏡の悪魔が指を向けたのは、それまで二人の悪魔の会話に反応すらしなかった前を行く男のポケット。 正確には、その中に有るものだ。 「陛下が眠りについた物以外は一つ残らず消えたはずの『カプセル』が、何故そこにあるんだろうね。 僕にも説明がつかない。 それで、どうするんだいバール 地獄の底で待っていろなんて言っていたけど、こんな所にいるんじゃね」 それに、初めて男―――バールが反応した。 「是非もない。知らない場所だからと迷う必要は無いだろう。 葛根市では退くことになったが、『ここ』で二度目を行なえばいい」 「……聴いたか、ベリアル。このミスター・ハードボイルドは こんなわけの分からないところで続けるつもりのようだ。本当にマスターオブオカルトの名は彼に譲るしかないな」 「いやそれはいらんちゃうんかなぁ、少なくとも俺はいらん。 ま、ええんちゃう? 陛下がおらんで何ができるかわからんけどな」 見知らぬ場所に突然迷い込んだというのに全く意に介さない男の言葉に 二人の悪魔は呆れたように嘆息しながらも反対する様子は無く、むしろ楽しそうにおどけた敬礼を返した。 そして男は、ゆっくりとその姿をかき消していく悪魔たちと声を揃える。 「「「エロイムエッサイム」」」 リリカル・クラッカーズ 『ミッドチルダにカプセルが蔓延し始めたようです』 「本当にすいませんフェイトさん、わざわざ送らせてしまって。なのはさんは元気でしたか?」 黒いスポーツカーの助手席に座るティアナは運転しているフェイトに頭を下げた。 「うん、相変わらず元気だったよ。……完全に親バカの顔でヴィヴィオの写真 大量に見せられて少し困ったけど。スバルはどうだった?」 多忙な執務官の少ない休暇を利用して二人は、それぞれの親友を訪ねていたのだ。 「スバルも変わらないですよ、ギンガさんも。 ただ、ゲンヤさんが最近かなり忙しくて自分たちも休みを取りづらいって言ってましたけど」 「レジアス中将の穴を埋めるのに苦労してるんだね……」 そう、現在管理局は『陸』と呼ばれる地上本部、『海』と呼ばれる本局の双方が混乱した状態にあった。 JS事件で殺害されたレジアス・ゲイズ中将―――長年地上本部で辣腕を振るった英雄を失ったことが原因である。 JS事件直後こそジェイル・スカリエッティとの繋がりや、違法行為スレスレの手段をとってきた事で批判が集中していたが 調査が進むにつれ中将にそういった手段をとらせてしまった地上本部の窮状が表沙汰になる。 少ない予算、貧弱な装備、本局に引き抜かれていく人材。 そういった状況を作り出す事になった本局に対する批判が湧き上がった。 さらに、強烈なリーダーシップをとる―――悪く言ってしまえばワンマンだった中将の指示が無くなった事で業務が停滞。 それを解決するために『一時的に』本局が『支援』する動きが持ち上がるが、逆にそれまでの本局の地上本部への所業を知る『陸』の局員 特に経験豊かな中堅世代が一斉に辞職。混乱を助長することになってしまう。 『海』でも、かつての『陸』の局員だった者が『陸』に大量に復帰しようとした事から事態は管理局全体に広がった。 そのため管理局は組織を再編、『陸』と『海』の関係の改善を図る。 その一環として『陸』に残った数少ないベテランの一人であるゲンヤ・ナカジマ三佐は、『海』との繋がりを持つことから 現場を指揮する立場から『陸』の上層部へ本人も望まない形での抜擢をされる事となった。 「ギンガさんが言ってたんですけど、最近ミッドでも犯罪が増えてるんですって。 本局の方も色々問題出てきてますし、早く何とかしないといけませんね……」 機動六課の一人としてJS事件には深く関係したティアナは、少し複雑な気分のようだ。 沈んだ様子のティアナを励ます意味を込めてからかい混じりにフェイトは返答するが 「そのためには私たちも頑張らないと。ティアにも早く一人前になってもらわなきゃね。 ――――――ッ!?」 自動車の進路上に、身を投げ出すように倒れこむ人影が目に入り慌ててブレーキを踏み込んだ。 周囲にゴムの擦れる独特の音を撒き散らし、スポーツカーは倒れる人影の直前で止まる。 車内の二人は、ドアから飛び出し人影に駆け寄った。 倒れていたのは中性的な顔立ちをした少年だ。華奢で小柄な体を丈の長いブルーのウィンドブレーカーで包んでいる。 「……あ、ず…ちゃ……」 意識の無い少年は、うわ言で何事かを呟いた。 フェイトが少年の体を起こすと、少年の首に下がったクロスのペンダント―――ちょっとした仕掛けで中にちいさな収納スペ-スがある物だ―――から小さな何かが零れ落ちた。 ティアナが拾い上げたそれは、 「カプセル剤?」 赤と白。二色に塗られたどこにでもあるカプセル錠だった。 「『カプセル』……ねぇ」 複数の陸士部隊から提出された麻薬事件の報告書。それらに添付された新手のドラッグの画像を眺め、ゲンヤ・ナカジマ『一佐』は唸った。 どうにも妙な事件だ。 最近の管理局内部の混乱で捜査の手が足らなくなり犯罪が増える以前から ドラッグに関係した案件も少なくは無かったが、こんなクスリが流行ったことは無かった。 幾人か売人を締め上げたが、どいつも組織的な背景の無い雑魚ばかりで どこから仕入れたかという話になると急に要領を得なくなる。 肝心の『カプセル』についても、押収したものを調べさせたが何かの化学物質かもしれない、と何も分からないと同義の結果だ。 『カプセル』のドラッグとしての効用も他のクスリと比べて、目新しいものではない。 そのくせ馬鹿な若い連中がやたらとハマっているそうだ。 そして、『カプセル』には奇妙な噂があるという。曰く「願いが叶う」と。 陸士部隊の指揮統括を行なう立場になった身としては一つの事件にばかり掛かりきりではいけない。 数は多いが事件としての規模も大したものではない。だが、ゲンヤは妙にそのドラッグのことが気になった。 「……やれやれ」 懇意にしている陸士部隊の隊長―――自分と同じ今では数少ないベテランだ―――に連絡する。 『カプセル』に関して優先的に捜査するようにという指示だ。このぐらいの勝手ならば問題は無いだろう。 ゲンヤは『カプセル』の報告書を処理済の書類の山の一番上に載せ、未処理の書類の山脈へ目を向ける。 「今日も泊まりかね。レジアス中将、あんたすげえよ」 今の自分を遥かに超えるであろう仕事を長年こなし続けた、あまり好きにはなれなかったかつての上司への偽らざる賞賛だった。 『廃棄都市区画』の片隅で鋲のついた皮のジャケットを着た精悍な青年が一人ごちる。 「何だって俺はいきなりこんなトコにいるんだ? ま、なかなか面白そうだがな。 っかし、『魔法』、『魔法』ねぇ」 青年―――葛根市のアンダーグラウンドで最強と謳われた男は、歯を剥き出しにした獰猛な笑みを浮かべる。 「そんなモンが本当に存在するとはな。お前が見たら何て言うのかね? なぁ、『ウィザード』」 目次へ